いかに駅名が「命名」され、変更されるのかを研究した

音楽出版社で演奏家のインタビューから広告版下作り、通販部門の仕事などいろいろやった約10年を経てこの仕事を始めたが、自著では鉄道関係の本や雑誌の記事などもいろいろと書くようになった。中でも最初に駅名に集中的に取り組んだのは、平成16年(2004)に上梓した『消えた駅名』(東京堂出版)である。社史を広範に取り揃えている神奈川県立川崎図書館に通い、各鉄道の年表などを黙々と書き写す作業が続いたが、これで駅の命名がどのようになされ、どんな事情で変わるのか認識を新たにしたものである。戦時中に「防諜のための改称」が行われたのもそこで初めて知った。

その後は監修を担当した新潮社の『日本鉄道旅行地図帳』(平成20年~)である。戦前からの鉄道関係の手持ちの地形図類を元に地図原稿を作製し、駅名の変遷について多方面の資料に当たって調べて表にした。これを地方ごとに毎月刊行したのはかなり大変な仕事だったが、明治以来駅の名前がどのように命名され、それが時代を経てどんな事情で変更されるのかを知る勉強になった。そこで大きく助けられたのがJTB(現JTBパブリッシング)の『停車場変遷大事典 国鉄・JR編』(平成10年、石野哲編集長)である。残念ながら私鉄編は出なかったのでそちらについては私たちが独自に調べなければならなかったが、いくら調べても十分と言えず「泥沼」にはまった。それを助けてくれたのが駅の変遷を長らく独自研究していた星野真太郎さんである。本当に感謝している。

「行政区分と変化の歴史」が駅名解読のカギ

日本鉄道旅行地図帳』で扱った駅は、廃止された路面電車の停留場を含めればざっと3万ほどにものぼるだろうか。それぞれの駅の設置と名称変更(読みだけの変更、漢字だけの変更も含まれる)などを記載した、まだ不完全ながらも締切に追われて「完成」させた表を眺めるにつけ、地元の地名を採用する駅だけでなく、神社仏閣や工場、学校などさまざまな施設等の名称を採用するものもあり、またそれが時代により変化していくことがわかった。

採用される「地元の地名」にしても、合併による自治体名の変更から、市町村の中の大字おおあざ・町名の変更、それらのエリア変更などが駅名に影響することも少なくない。ここで断っておかなければならないのは、駅名を読み解くには行政区分とその変化の歴史について理解しなければならないことだ。過去にいくつも出た『駅名事典』の類の「駅名の由来」の誤りは多いが、その多くが駅名そのものに「地名学的なアプローチ」で取り組んでしまったものである。

たとえば京王線の南平みなみだいら駅(東京都日野市)の由来について「南にある平らな土地」といった表面的な解釈で済ませた記述を以前に見たことがあるが、南平という地名は南多摩郡内に2カ所あった平村(江戸時代からの村名)を明治11年(1878)の郡区町村編制法の施行で北平村と南平村として区別したものだ。それが明治22年(1889)の町村制施行で七生ななお村大字南平になった状態で駅は設置されている。いずれにせよ、駅名を解釈するには設置当時の「地名状況」を調べなければならない。