楽器の弾き方を学ぶように練習する
ここまで読んできて、いまあなたはこんなふうに感じているのではないでしょうか。
「望む結果を手に入れられるようになるのは素晴らしいけれど、きっとものすごく難しい訓練が必要なんだろう。修行のようなものだろうか?」
安心してください。いまからお話しするのは、わたしがビジネススクールや、エグゼクティブ向けのプログラムで教えている内容です。つまり、教室やワークショップで学んで、自宅で実践できるものです。正しく行えば、日常的な課題を解決し、よりよい結果を日々実感することができます。
わたしはみなさんに、たくさんの知識や情報を提供したいのではなく、たとえていえば、「新しい楽器の弾き方」を学んでもらいたいと思っています。それは、自分の経験という楽器です。毎日楽器にさわって奏でてみなくては、美しい音を思いどおりに出すことはできません。繰り返し練習し、失敗の中から学び続ける必要があります。このサイクルこそが、いま劇的に変化している新しい世界に適応し、創造的に生きていくための鍵となります。
人生で最も貴重な体験をしているときに起きた恐ろしいこと
もちろん、わたし自身もいつも練習しています。失敗の繰り返しです。
息子が生まれたときのことです。初めて家に息子を連れて帰ってきた日、わたしはソファに座って、彼の小さな体を抱きしめていました。とても静かな土曜日の夜、この特別な瞬間に浸っていました。ところが突然、わたしの右手はニュースをチェックしようとスマートフォンに伸びました。まるでわたしの右手に意識があるかのようでした。自分の思っていることとは関係なく、自動的に動いたのです。わたしはそこで自分がやろうとしていたことに気がついてゾッとしました。
人生で最も貴重な体験をしている最中、息子がわたしに全存在を委ねている瞬間であったにもかかわらず、わたしの無意識の一部は土曜の夜にニュースをチェックするというまったく重要度の低いことをやろうとしたわけです。
このとき、自分自身がまったく必要のないことに、いとも簡単に気を取られてしまうことがあると改めて気がつきました。この瞬間わたしは、できる限り息子と一緒にいる時間を大事にしようと、自分自身と息子に対して誓いました。いまでもこの約束は守っています。(続く)