精神科医の片田珠美さんは、職場での不適応が発達障害と診断されるケースが増えてきたと言います。なぜ、発達障害が顕在化してきたのか、その背景には、産業の変化、職場の変化がありました――。

※本稿は片田珠美『一億総他責社会』(イースト新書)の一部を再編集したものです。

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発達障害の増加

コミュニケーション能力がそれほど高くなく、対人関係が苦手な人は昔から一定の割合でいたはずだが、製造業の職場が多かった時代は、問題が表面化することはあまりなかった。しかし、サービス業従事者が増え、高いコミュニケーション能力が要求されるようになると、職場での不適応も、発達障害と診断されるケースも増えた。

これは、発達障害の特性によると考えられる。発達障害の人は、空気が読めないとか、集団行動が苦手という傾向があるとはいえ、同じことを繰り返す仕事には向いているようで、まじめに取り組むことが多い。そのうえ、独特のこだわりがプラスに作用すると、他の人たちよりもいい製品を作れることも少なくない。

何よりも、製造業では目の前の仕事に黙々と取り組めば評価され、対人関係にそれほどわずらわされずにすむ。そのため、製造業の職場も就業者も多かった時代には、発達障害が問題になることはあまりなかったのだろう。

ところが、製造業が衰退し、サービス業に従事する人が増えると、発達障害の問題が表面化しやすくなった。これは、サービス業で要求される、客の要求に臨機応変に対応する柔軟性を、発達障害の人は持ち合わせていないことが多いせいと考えられる。発達障害の人は、一般に変化に弱く、ちょっとした変化にも敏感に反応して不安になる。そのため、商品やサービスに不具合が生じて客が文句を言う事態に柔軟に対応できず、サービス業では職場不適応に陥りやすい。