職場でミスを連発し、自信をなくす。そんなことが続いたらどうすればいいのか。公認心理師のみきいちたろうさんは「自分は発達障害ではないかという疑問を抱いてカウンセリングに来る人は少なくない。発達障害に似た症状をもたらす発達性トラウマという可能性もあり、適切な診断とケアによって楽に生きられるようになる人も多い」という――。
ストレスを感じている若いビジネスウーマン
写真=iStock.com/Jay Yuno
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仕事でミスの多い自分に困って、心療内科に相談すると…

東京都の30代女性のJさんは、IT関連の企業に勤務しています。しかし、打ち合わせの内容を細かく覚えられない、ミスが多い、といったことで悩んでいました。人とのコミュニケーションもぎこちなく、うまく空気が読めずに、そのことを上司や取引先からも指摘されることがあります。書店などで目にする「発達障害」の本や、ネットでの記事を見ると自分のことのように思えてきました。

あるとき、意を決して心療内科を訪れ医師に相談してみました。

医師の診断の結果は、「発達障害については、どちらとも……」という感じ。「強いていえばグレーゾーンということにはなりますが……」と曖昧な回答でした。

「じゃあ、私の悩み、生きづらさの原因は何なんだろう?」とJさんは途方に暮れてしまいました。

このJさんのように、自身が発達障害ではないか? とご不安になる方は珍しくありません。

私が担当するクライアントでも、自身が発達障害であると疑い、私が「たぶん大丈夫だと思うので必要ないですよ」「調子の悪いときに下手に検査を受けても結果がわかりませんから」とお伝えしても、発達検査を受けて確かめようとする方も少なくありません。

発達障害に似た症状を抱える人が増えているのはなぜか

心理学の実験で占いの結果をランダムに伝えても、多くの人が「自分に当てはまる」と答えた、というものがありますが(「バーナム効果」として知られています)、発達障害にまつわる情報を見れば、誰もが当てはまりそうで不安になりますし、どうしようもない生きづらさを説明、診断するために、発達障害が拡大適応されてきた面は否めません。

特に、先天的であるとされてきたはずの発達障害の認定件数が急増している点について、医師や研究者からは疑問の声が上がっています[例えば、杉山登志郎『子ども虐待という第四の発達障害』(学研プラス)など]。

そして、現場からの報告、愛着(子どもが養育者との間で形成する絆)やトラウマについての研究などから、幼少期にストレスを受けることで発達障害と酷似した症状が生じることが明らかになっており、そうしたトラウマによる生きづらさや症状のことを指して「愛着障害(アタッチメント症)」「第四の発達障害」あるいは、「発達性トラウマ障害」と呼ばれています。