「発達障害」と「発達性トラウマ」の違い
ここで一度整理しておきたいのは、「発達障害」と「発達性トラウマ」の違いについてです。
実は、近年、発達障害自体が遺伝など先天的なものというとらえ方から、環境を原因とする考え方が主流となりつつあります。例えば、医師の岡田尊司氏は『自閉スペクトラム症 「発達障害」最新の理解と治療革命』(幻冬舎新書)の中で近年の研究動向に触れ、先天的であるとされてきた発達障害について環境要因の関与を示す割合が増え、「(環境要因の関与は)もはや否定しきれないところに来ている」と述べています。
簡単に言えば、発達障害も、胎内で受けた環境因子のストレス(化学物質や妊娠中のストレス)への暴露や、晩婚化の影響、分娩時のトラブル、出産後の不適切な養育など後天的なストレスの影響こそが問題では? と指摘されるようになってきたのです。
発達障害とトラウマとは、どこの時点で区切りを入れるか? やその内容の違いはありますが、いずれもストレスによるダメージという点が共通すると考えられます。
発達障害は、バイオマーカー(生理学的な指標)が存在しないため、発達検査などのテストでも、両者を本当に区別できているか? というと、必ずしも区別できているとは言い切れないのです。
では、「発達障害」という捉え方に意味がなくなっていくのか? 区別できないのか? といえばそうではありません。
区別は難しいが、診断をつけたほうが楽に生きられる場合も
特に現場でクライアントと接していると、明らかに「この方は発達障害ととらえたほうがよい」と感じるケースはあります。後天的な要素が強い方と、いわゆる発達障害の方とは、現場で接したときの感覚が異なるのです。加えて、生育歴をしっかり聴取し、経過をフォローできれば見通しはつけやすくなります。
これは、あるていど経験のある精神科医やカウンセラーであれば同じように感じている方は多いのではないかと思います。
もう一つ、両者を区別するために重要なポイントは何かというと、「どちらの診断(見立て)をつけたほうがその方は楽になるか?」という視点です。
他の悩みへの見立てでも同様に大切な視点ですが、神様が降りてきてどちらか答え合わせをしてくれるわけではありませんから、あくまでその方が生きやすくなる方向で見立てたものをとりあえずの“正解”とするのです。