妻に使ってもらうのは自信のある試作品だけ
できあがった試作品は、カインズの正社員やパート社員に実際に使ってもらい、感想をリポートに書いてもらう。
「年に1~2回、本社のホールにパート社員や正社員を相手に展示会を開いて、プレゼンをするんですよ。パートさんが結構いいことを……というか『もっと遠慮してくださいよ』と言いたくなるくらいキツイ意見をポンポン出します」
展示会の場でよく出る意見は、「洗えない」「洗いにくい」。「これどうやって洗うの? とか、分解して洗えるようにしてほしい、という意見が意外に多い。特にキッチン用品がそうですね。店でお客さんにこんなことを言われた、といった情報も得られますから、いま、最も開発に役立っています」。
研究熱心のあまり、自宅で家事をしていても、やかんの取っ手の位置を確認したりとつい「仕事モード」に。結婚17年目の夫人に試用を頼むこともあるが、
「社内でパートをやってるかみさんにはあんまり相談したくないです。ちょっと出来が悪いとバカにされるから(笑)。使ってもらうのは自信作だけ」
自社HPの「お客様ご意見BOX」も活用するなど地道に集められた情報は、マーチャンダイザーに集約される。茂原さんはこれらをどう活用しているのか。
カインズのオフィスでは、当の茂原さんが何もせずに考えごとをしたり、1つの商品を1時間以上、じーっと眺めて過ごす姿がしばしば見られるという。前述のハードワークとは真逆の姿だ。
はたからは何をしているのかわからないのだが、実は、「PBづくりに専門職が必要」という信念の核心はここにある。
「大切なのは、1つの商品について集中して考える時間を持つこと。『何だか暇そう』と思われるでしょうが、絶対に必要な時間なんです。バイヤーの仕事と同時並行では、いまあるものを似せてつくることしかできません」
この時間を持てることが、寿命約1~1年半、常に刷新が求められるPBのマーチャンダイザーたるゆえんなのだ。
08年初め、未曾有の資源価格高に見舞われた際、その“アイデア脳”が冴えた。数十年来カインズの定番商品であり続けた8メートル巻き、1本58円のアルミホイル。その価格維持が難しくなった。
「68円で売らざるをえないかな、などといろいろ考えましたが、小売業にとっては客数が唯一、支持されているかどうかのバロメーターですから、客数を減らすのはまずい。いろいろ考えた末に思いついたのが、一巻きを16メートルに倍増することで、1メートル当たりの売価を現状より引き下げることでした」