平成の怪物、ユニクロ
山口県宇部市のメンズショップ小郡商事という一介の洋品店から、売上高2兆2905億円、純利益1780億円(2019年8月期)という世界的企業に急成長したユニクロはまさに平成の怪物だ。
会長兼社長の柳井正氏の戦略が、「ファッションのカジュアル化」の流れに合致し、その戦略を極限まで突き詰めて実行したことが勝因だ。ユニクロで働くことは上のレベルから下のレベルまで相当大変で、同社で幹部だった人はこう語っていた。
「柳井さんは飾ることができない、あのまんまの性格。大きな目標を掲げて会社を引っ張って行くので、社員にとっては厳しい人。現場を重視しており、顧客のコメントも現場によく反映させる。週末は必ずゴルフをするが、その帰りに店舗に立ち寄るので、日本中の店長がひやひやしている。自分自身の仕事について言えば、週末、関係部署から要望、質問、提案などのメールが300~400通来る。月曜の朝3時くらいまでそれを読み、自分なりの考えを持って週明けの部長級会議(柳井氏をはじめ部長級幹部40人くらいが出席)に臨まないと、議論に参加できない。人事評価は評価委員会が決め、自分のグループの評価がCだったときは、ボーナスが部下より少なかった」
ユニクロの躍進を支える黒子、総合商社
消費者の目には見えにくいが、ユニクロの躍進を支えてきたのが総合商社だ。
ユニクロは、他のアパレル・メーカーと違い、自社工場を持たず、生産を主に中国の工場に委託している(その他、東南アジアの工場にも)。中国に工場を持ったりすると、労務対策、役所や税務署との折衝など、様々な厄介ごとが生じる。ある日本のメーカーは、業績不振だったので、山東省の工場の閉鎖を決めたら、日本人の責任者が地元の人民委員会に監禁され、出国できなくなったという。
こうしたトラブルを避けるため、工場を持たないのは賢明だ。その代わり、委託する製品の材料や仕様を細かく発注し、100万着単位の大量発注でコストを削減し、「匠」と呼ばれる中途採用のベテラン日本人技術者を派遣し、生産の指導や品質管理に当たらせている。
ユニクロは、多くの委託工場への原材料供給、生産委託、日本への輸出などを、三菱商事、丸紅、双日といった総合商社に任せている。商社の生産受託機能、金融機能、国際物流機能等を使うためだ。商社は、工場に原材料を供給し、支払いを90日後に設定したりして、工場の資金繰りも手助けしている。また優良な工場の発掘、現地の政治経済情報の提供なども商社の仕事である。商社の主な儲けは、ユニクロと工場の間に入って生産を委託される際の加工賃と日本への輸出取り扱いの口銭である。
もちろんユニクロは商社に対して求める水準も厳しい。ある大手総合商社のアパレル部門の社員は「加工賃と生地代込みで1着いくらでユニクロさんに売りますという契約になっている。小売価格が3000円のシャツだったら、800円とかそんなもんだと思う。最近は、世界的にサステイナビリティが重視され、ユニクロさんの抜き打ち検査も入るので、児童労働、労働環境、環境汚染なんかに関して、事前に自分たちで各工場を見回っている」と話す。