相談されたら、まずは「大丈夫ですよ」

では、山本に限らず、佐川のセールスドライバーが大切にしている言葉とは何か。

「『こういう荷物は運べますか?』とお客さまからご相談をいただいたときは、まずは、『大丈夫ですよ』とお答えして、安心していただくようにしています。そしてどのような方法をとれば送ることができるかをお伝えしています。大きな荷物、重い荷物、梱包が難しい荷物でも、だいたいのものは運べるんです。ただし、宅配便の規定サイズを超えたものは、違う料金体系になりますけれど。

宅配便としてお預かりできる荷物は“260サイズの50キロまで”です。これはタテ・横・高さ3辺の合計が260センチまでということですけれど、これって結構な大きさなんです。たとえば、アパレルのお店で洋服を吊るすラックがありますよね。キャスターが付いたラックです。あれも宅配便で運べるんですよ。キャスターに“プチプチ”などエアパッキンと呼ばれる緩衝材を巻いて、ガムテープでしっかり固定していただければ運べます。物干しざおやサーフボードでも、緩衝材で梱包していただければ大丈夫です。

お客さまには、『まずは何でも聞いてみてください』と伝えています。私だってお客さまに尋ねられるまで、運べるかどうかを考えてみたこともないものがこの世にはたくさんありますから」

ちなみに、佐川は金魚など生き物も運んでくれる。ただし、宅配便として運ぶわけではなく、専門の要員が輸送する。

真夏の町で冷えたペットボトルを渡される

彼女の話を聞いていると、セールスドライバーの仕事は単なる運送だけではないことがわかる。客が「これ、運んでもらえるのだろうか?」と疑問に思っているものに対して、運び方、梱包の仕方をアドバイスすることもまた仕事だ。コンサルティング業であり、接客業でもある。

佐川の現場では、「音を立てないように運ぶ」が合言葉のようになっている。10年ほど前からのことだ。経営者が号令をかけたのではなく、現場で自然発生的に始まったという。

「現場では『音を立てない荷扱い』と言っています。お客さまから荷物をお預かりしたときに、ポーンと音が出るような置き方はしない。音を立てないように、そっと置け、と。そういうふうに心がけていると、お客さまも『ちゃんとやってるな』とどこかで見てくださっているんですよ。今年もものすごく暑い日に台車で荷物を運んでいたら、町で出会ったお客さまから労うようにキンキンに冷えたペットボトル飲料を手渡されました。そんな経験も一度や二度ではありません。毎年夏になると、何度か経験します」