鹿児島県長島町は地域映画「夕陽のあと」を制作し、劇場公開した。映画のテーマは「子育て」。長島は合計特殊出生率が2.06人という“子だくさん”な島だが、その一方で、「出産して当たり前」という空気に苦しむ人も暮らしている。地域映画で社会的なテーマに触れた狙いはなにか。プロデューサーの小楠雄士氏が解説する――。
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映画「夕陽のあと」監督:越川道夫 出演:貫地谷しほり、山田真歩、木内みどりほか

なぜ、あえて「ご当地映画」を選んだのか

全国の地方自治体が町おこしのために作る「ご当地映画」が乱立している時代。鹿児島県の最北端に位置する島・長島町も、映画で地域の魅力を発信していくという地方創生施策をあえて選んだ。

単に町のそのままの姿をPRするだけなら、ドキュメンタリーを制作すればよいかもしれない。しかし、それだけで「地方創生」と呼べるのだろうか。

長島町は日本の食卓を支えるほど農業・漁業がさかんな地域だが、最大の特徴は何よりも出生率の高さである。人口約1万人の島で、合計特殊出生率は全国平均の1.44人を大きく上回る2.06人(2016年調べ)。この数字を支えているのは島のお母さんだけではなく、すべての島民で子どもたちを育てるという、長島町で受け継がれてきた価値観にある。

「夕陽のあと」は、そうした“長島町の子育てのリアル”を描き、子どもをめぐってさまざまな事情を抱えるすべての人に問いかける、普遍的なテーマを目指した映画だ。