意を強くした担当者が、コミュニティ会員に向けて「凍らせて食べてみよう!」と呼びかけたところ、「凍らせるなんて、思いつきませんでしたが、やってみるとおいしい」などの反応があった。さらにトロッと派、シャリシャリ派、カチカチ派など、冷凍にかける時間の違いによる、さまざまな味わいを楽しむ人たちがいることが浮き彫りになっていった。

写真提供=日本ルナ
商品画像は企画当時のもの。

この盛り上がりを受けて、凍らせる食べ方を広めるべく、その推奨の仕方、食べ方のアレンジ、呼び名などの募集や投票が行われた。日本ルナはこうした経緯を、ホームページでのニュース発信、店頭でのPOPなどで紹介し、コミュニティへの参加が呼びかけた。SNSでの口コミの広がりなども期待しての取り組みである。

結果はどうだったか。日本ルナによれば、2018年度のバニラヨーグルトは、特に新商品の追加投入などは行わなかったにもかかわらず、国内ヨーグルト市場のダウントレンドのなかで、売り上げ実績で前年を上回ったという。ライトユーザーの購買頻度が上昇するなどのブランド・ロイヤルティの向上が、コミュニティ内で確認されている。

ウェブが可能にした小規模事業へのマーケティングの活用

企業経営を、顧客を中心においた発想で展開する。このマーケティングという経営思想は、20世紀の大衆消費社会のなかで発展した。19世紀後半に始まる第2次産業革命は、飛躍的な工業生産量と一次産品流通量の増大を社会にもたらした。この変化に乗るべく20世紀の企業は統合的な対市場活動に乗り出した。マーケティングは巨大化する企業の対市場活動に貢献するべく、発展を遂げた。

しかし今は21世紀のただ中だ。新しい世紀に入り、すでに20年近い年月がたつ。グローバル化、サービス化、デジタル化と、新たに広がるフロンティアに、いまマーケティングは挑んでいる。

ウェブがマーケティングにもたらした変化は数多くあるが、そのひとつに、より小規模な企業でもマーケティングをやりやすくなった点がある。SNSやeコマースは、大企業のマーケティングにも広く活用されているが、テレビ広告や全国チェーンの活用と比べると、規模の小さな事業にも低予算で活用しやすい。

バニラヨーグルトのキャンペーンでは、大規模な消費者調査やテレビ広告が行われたわけではない。日本ルナは、営業部がつかんだ情報を基に、ウェブ上のブランドコミュニティでのやり取りを重ねながら、POPなどによる店頭でのキャンペーンを展開することで、消費者とのコミュニケーションを機動的に進めている。

ウェブをプロモーションに活用することによって企業は、状況を迅速に理解し、小規模な活動を通じて機動的に対処し、適応を進めることが可能になる。この機動力を利かせた展開は小規模事業に向く。しっかりとファンをつかんできた小さなブランドが、新たなマーケティングの可能性を捉えている。

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