前払いした学費の一部を返してもらおうとしたら……

入管には上野法科ビジネス専門学校の担当者も同行していた。以降、担当者はダワ君に対し、ブータンへの帰国航空券の購入を急かすようになった。
 例えば、7月29日には、ダワ君のスマートフォンに担当者からこんなメッセージが届いている。

ダワ君と学校担当者とのメッセージのやりとり

<今日までにチケットを買わないと、じょせき(除籍=筆者注)になる可能性がありますよ。>
<一周間前(原文ママ)に二人で約束しましたよね。帰国チケットを今日までに提出する。>

入管当局は出国までの準備期間として約1カ月の滞在を認めていた。その間にダワ君が失踪し、不法残留となれば学校側の責任が問われる。所在不明の留学生を大量に出して問題となった東京福祉大学のケースと同じだ。だから学校側は、彼をできるだけ早くブータンへと送り返したい。

ダワ君は学校に4カ月ほどしか在籍していない。そこで航空券を購入する前に、学校に支払った1年分の学費65万円の一部を返還してもらおうとした。来日前にブータンで背負った借金の返済に充てるためだ。しかし、学校側は一切の返還を応じなかった。入学前に彼が署名していた「誓約書」を盾にとってのことである。確かに、誓約書にはこんな一文がある。

<法律違反等により在留期間更新不許可になった場合、学費の返金は一切求めません。>

ダワ君によれば、誓約書の内容に関し、上野法科ビジネス専門学校からの説明はなかったという。同校は入学前、彼が在籍していた千葉県内の日本語学校にいくつかの書類を送っていた。その1つが「誓約書」で、日本語学校から十分な説明も受けず、言われるまま署名しているのだ。

専門学校に質問状を送付

もちろん、説明があったところで、ダワ君は署名に応じていただろう。留学費用の借金を返済するためには、日本で進学し、働き続けるしかないのである。

とはいえ、こんな「誓約書」の存在からして、上野法科ビジネス専門学校は留学生のビザが更新不許可となる事態をあらかじめ想定し、学費の返還を求められないよう予防線を張っていたとも受け取れる。ダワ君のクラスメートのベトナム人女子留学生も、すでに更新不許可となって日本から去った。他にもネパール人留学生の1人が学校から姿をくらまし、所在不明となっているという。

上野法科ビジネス専門学校では一体何が起きているのか。筆者は取材してみることにした。以下が同校に送った主な質問だ。

1)同校が設置する「情報ビジネス科」「日本語教師科」「日本語学科」に在籍する学生数と留学生数。
2)留学生の出願資格として、a)日本語能力試験「N2」以上、b)日本留学試験・日本語科目200点以上、c)法務省告示校(日本語学校)で6カ月以上の日本語教育を受け、出席率が良好、のいずれかを満たすことを求めているが、a)もしくはb)を満たして入学した留学生数。
3)留学生にのみ奨学金制度を設け、年30万円の学費を減免している理由。
4)留学生の経費支弁能力の確認方法。どれほどの仕送り、経費支弁者の銀行預金残高があれば入学を認めているのか。
5)近年急増している“偽装留学生”に関する認識。
6)「週28時間以内」を超える違法就労へのチェック体制。
7)2018年度と19年度に「除籍」もしくは「退学」とした留学生数。
8)「誓約書」の内容説明は、留学生が在籍する日本語学校に一任しているのか。
9)ダワ君が求める学費の一部返還に応じるのか。