「パパ」に民事上の責任を追及することはできない
男性の中には女性と性的関係をもった後で、女性にお金を支払わずに逃げてしまう人もいるようです。
それでは、男性と性的関係をもった後、男性がお金を支払わないような場合、女性は男性に対して、対価の支払いを求めることはできるのでしょうか。それとも、女性としては泣き寝入りするしかないのでしょうか。
この点、男性は女性に対して、一度は対価の支払いを約束したわけですから、女性は男性に対して、約束通りに対価の支払いを求めることが可能なようにも思われます。
しかしながら、女性が自分の体を提供することの対価として、男性から金銭を受領する、という内容の契約(パパ活契約)は、善良な風俗に反するものであるため、公序良俗に反して無効です(民法90条)。男性は、女性にお金を支払うと約束したとしても、そのような約束を守る法律上の義務がないということになります。
そのため、性的関係を結んだあとに、男性がお金を支払わなかったとしても、女性は、男性に対して、お金を支払うよう求める法律上の権利はありません。
また、女性としては、約束したお金を支払わなかったことを理由に、男性の債務不履行責任(民法415条)を追及することもできません。
すなわち、性的関係を結んだあとに男性がお金を支払わない場合、女性としては男性に対してお金を支払うよう求めることはできず、泣き寝入りするしかないということになります。
刑事上「詐欺罪」にあたる可能性はある
上記のとおり、女性は、男性に対して、民事上の責任を問うことは難しいですが、男性の刑事責任を追及できる可能性はあります。
すなわち、男性は、女性に対して対価を支払うつもりがないのに、女性にその旨誤信させて女性と性的行為をもったということで、男性を詐欺罪(刑法246条2項)に問うことができる可能性があるということです。
過去の裁判例では、詐欺罪を否定したものと肯定したものがあり、裁判所によって判断が分かれています。以下、詐欺罪を否定した裁判例と肯定した裁判例をそれぞれご紹介します。
まず詐欺罪を否定した裁判例です。詐欺手段を用いて性的関係をもったあとで、女性に対してその対価の支払いを免れたケースにおいて、売淫行為(売春行為)は、善良の風俗に反する行為であって、その契約は無効となるから、これによって売淫料債務を負担することはないため、売淫料を欺罔してその支払いを免れても、財産上不法の利益を得たとはいえないとして、詐欺罪の成立を否定した裁判例があります(札幌高裁昭和27年11月20日判決)。
この裁判例では、民事上の保護される利益と刑事上の保護される利益とを同じように考え、民法上、売春をするという内容の契約は公序良俗に反して無効であり、女性は男性に対して売春の対価の支払いを求める権利がないため、刑事上も女性には保護に値する法益がないという理由で、詐欺罪の成立を否定しました。