主任ケアマネの人数自体が少ない実情を無視した法改正
ひとつはすでに改定され、2021年の3月に施行される「居宅介護支援事業所の管理者は主任ケアマネジャーでなければならない」というものと、これと同じタイミングでの改正が予想されている「ケアマネジャーの仕事に関しても今後は利用者の1割負担にする」というものです。そこで、このふたつの法改正の問題点を2回にわたって現場のケアマネジャーの証言を交えて述べていきます。
介護保険法の改定により「居宅介護支援事業所の管理者には主任ケアマネジャーを置かなければならない」という規定ができたのは、2018年4月のことです。
なぜ、この規定ができたのか。その理由として挙げられたのは「介護保険サービスの質の向上」です。ケアマネとして長い実務経験を持ち、研修もしっかりうけた“主任ケアマネ”が管理者になり、その部下的な立場としてのケアマネの仕事の質を上げるため指導育成することが必要だ、というわけです。
主任ケアマネになるには、ケアマネとして5年以上の実務経験を持ち、長時間の研修を受けた人という条件があります。現状では“主任ケアマネ”の管理がない事業所でも業務はできますが、そのなかにはケアマネになったばかりの人もいて、経験の浅さから、担当する利用者に対して細やかな目配りができない懸念がある。
ならばベテランである“主任ケアマネ”に管理を任せる規定を設け、責任を持って仕事のチェックをし、指導する体制にすることで質を担保しようというわけです。利用者サイドから見れば「質の向上」を期することは歓迎すべきことで、この改定に特に問題があるようには見えないかもしれません。
ケアマネが廃業に追い込まれ介護サービスが受けられぬ利用者続出
しかし、大きな問題があるのです。
首都圏のある市で居宅介護支援事業所を営むケアマネ歴15年のIさん(主任の資格未取得)はこう語ります。
「主任ケアマネの数が十分ではないのです。厚労省が発表した統計によれば2018年現在で主任ケアマネがいない事業所は43.7%です。主任ケアマネがいない事業所は3年後の2021年3月には存続できません。事業所は大慌てで主任ケアマネの確保に動いていますが、とても間に合いそうにありません。となると、2021年の春には多くのケアマネが廃業に追い込まれて、介護サービスが受けられなくなる利用者さんが続出するのです」
そもそもなぜ、主任ケアマネが少ないのでしょうか。ひとつは、主任資格取得までの高いハードルがあります。
主任取得できるのはケアマネジャーの肩書を持つ人ですが、ケアマネジャーになるためには社会福祉士、介護福祉士などの国家資格(看護師、医師、理学療法士なども含まれる)を取得して、5年以上の実務経験を積むことが必要です。それでようやくケアマネ試験の受験資格が得られますが、試験の合格率は平均15%程度(2018年は10.1%)。かなりの狭き門です。
この関門を越えてケアマネジャーになり、5年以上の実務経験を積んだ人が70時間の研修を受けることで、やっと主任ケアマネになれる。最短でも取得までに10数年はかかる資格なのです。