このケースに限らず、BPSD(認知症の周辺症状)の発生メカニズムには、身体疾患が背景にあることも多いのです。例えば便秘が続いており、うまく苦痛を表現できず気持ちが荒れていた方が、便秘を解消してあげたとたん穏やかになった、というケースもあります。

▼常に無表情で元気がなく、何にも興味を示さない

最初に体の病気がないかを調べることは、いうまでもありません。ご高齢の方は難聴や白内障など聴覚や視覚の低下のために、元気がなくなっている可能性もあり、注意が必要です。

血管障害を合併しているようなケースでは、さらに意欲が低下している場合があり、体操や散歩などの体を動かすリハビリが有効な場合があります。アルツハイマー型認知症による意欲低下が主体であるのなら、できるだけ声をかけてあげることが必要でしょう。話題は過去に働いていたときのエピソードなど、本人にとって興味がありそうなテーマがいいでしょう。

聞き手のほうは、「話し相手から学びを得たい」という心構えで接することが大切です。もちろん、人生の先輩としてこちらが学びを得られることも多くあります。

認知症の方は、相手がどのような聴く姿勢を持っているかを敏感に感じとります。また、いろいろな人が関わる中で、関わってくれる多くの人たちが、本人に対してポジティブなフィードバックをすることで、徐々に明るくなっていくケースをしばしば経験します。

人は、人間関係に悩むものですが、人間関係により励まされることもまた事実です。

▼「薬を飲みたくない!」とごねる

注意が必要なケースです。単なる拒絶ではなく、頭痛や便秘、悪心といった副作用を嫌がり、薬を拒否するという行動に出ている場合があります。

うまく副作用などを表現できず拒薬になっている場合は、「どうして飲みたくないのか」を本人に聞き、主治医にあらためて相談するのがいいでしょう。

また、漢方薬や口腔内崩壊錠など、普段内服している形と違う薬剤を嫌がる場合もあります。この場合、通常の錠剤に変更することで内服できる場合があります。

逆に、薬を飲みたくないという表現が、本人と薬をすすめる介護者との人間関係の中で起きている場合、第三者の方にすすめてもらうと、すんなり飲むこともあります。また薬を飲む理由を忘れてしまっているケースもあります。この場合は毎回、理由を丁寧に説明すると飲んでくれることもあります。