メディアでは円高の悪い面ばかりが強調されているが、多くの日本人は円高でメリットを受けている、ということをまずは指摘しておきたい。
円高還元セールで輸入品が安く買えるのは喜ばしいことだ。外貨に置き換えて使うと考えれば給料は増えており、この状態がすでに“儲かっている”ということだ。言い換えれば、同じ給料でも労働価値は上昇していることになる。
ただ、外国製品との競争で雇用環境は厳しくなり、労働市場の弱者を直撃することになりそうだ。現在、日本の失業率は5%程度だから、労働価値上昇のメリットを受けられる人は100人のうち95人。さらに、そのうち1~2人は職を失い、10~20人は収入が減ってしまうかもしれない。この点で、円高のメリットをそのまま受け取れるのは、雇用が盤石で給料も安定している人だ。すなわち、円高で最もトクする人は、「海外ブランド品を買うのが好きな公務員の妻」のような人だ。
さて、この円高はいつまで続くのか。私は、まだ2年程度は続くと考えている。円ドル相場は8月下旬現在で1ドル=85円前後が続いており、これは一見、1995年と同水準だ。
だが、為替相場に貿易取引量と物価水準を加味した「実質実効為替レート」で見ると、2005年を100とした場合に95年のピークでは150、現在は103程度となっている。数字は大きいほうが円高を示すので、現在は95年より3割ほど円安ということだ。103は特別高くも安くもない水準で、ここからかなりの幅で変動する余地がある。今後、1ドルにつき10円程度は円高に動く可能性もあるだろう。
海外の長期金利を見ると、アメリカ、イギリスともに2%台まで落ち込んでいる。日本の長期金利も1%を割ったが、下げ方は海外のほうがはるかに激しい。まるで90~00年代初めの日本のような状況だ。相対比較で円が買われているわけで、この意味からも円高はまだしばらく続きそうだ。