滋賀県や草津市とwin・winの関係を築く
滋賀県と草津市が全面協力していることも、このフェスの特筆すべき点だろう。
野外フェスにつきものの騒音、交通渋滞、ゴミの問題などは、すべて行政が引き受ける。今や「イナズマ」は、滋賀県観光交流局の主要な業務のひとつになっているのだ。
補助金も出していないのに、これほど集客力のあるイベントが継続して開催されるのだから、県や市が進んで協力するのも不思議ではない。会場で観光PRができるなど、宣伝効果が大きいのは言わずもがな。しかも、事あるごとに西川さんが「イナズマ」や滋賀の魅力を、メディアを通じて日本中に発信してくれるのだ。おまけに、「マザーレイク滋賀応援基金」に毎年、寄付までくれる。その累計は2700万円以上にのぼるという。
2009年の「都道府県の魅力度ランキング」で42位だった滋賀県が、2017年には28位にまで上昇するなど、県の知名度もアップした。
この成功に触発され、野外フェス開催に興味を持つ地方自治体も増えているというが、西川さんほどの“地域の顔”を得ることは、たやすいことではないだろう。西川さん本人だけではなく、西川さんのマスコットキャラクター「タボくん」も、県のイベントや広報で大活躍するなど(西川さん側の厚意により、県はこのキャラクターを自由に使うことができる)、西川さんの貢献度は計り知れないからだ。
すべてが手探りだった「イナズマ」初回
そもそもの事の起こりは、2007年、滋賀県の広報誌の企画で、西川さんと嘉田由紀子知事(当時)が対談し、意気投合したこと。「滋賀県内でもロックフェスができればいいですね」と話したことから、プロジェクトが動き始めた。
翌年には、西川さんが初代「滋賀ふるさと観光大使」に就任。県の観光キャンペーンにも、手弁当で協力するようになった。
とはいえ、「イナズマ」の構想を具現化するのは、簡単なことではなかったらしい。
開催までの実質的な準備期間はたった半年。広告代理店のようなプロが仕切るのではなく、西川さんの個人事務所が主体となって運営する、いわば手作りのフェス。ノウハウもないため、すべてが手探りだったという。
「何もわからないまま、気持ちだけで立ち上げたので、1年目はただがむしゃらで……。苦労もあったし、周囲とぶつかることもありました」と、西川さんは語る。
20年以上西川さんと親交があり、初回の「イナズマ」から広報担当を務めるビバラジオの早川俊治さんも、「1年目や2年目は、本当にたいへんでした」と、振り返る。
「今でこそみなさんが応援してくれますが、最初の頃は、地元のメディアも協力してくれなくてね。『あの西川が、今さら地元に戻ってくるはずがないだろう』『滋賀で、そんな大規模なイベントができるわけがない』と、誰も信じてくれない。『新手の詐欺か?』『滋賀をバカにするな!』と追い返されたこともありました。悔しい思いもしたけれど、1回や2回で終わらせちゃいけないとも感じました」