私の会社では、年次業績評価との関連で同僚のフィードバックをきわめて重視しており、評価のためにときには30人もの人に匿名のコメントを求めることがあります。このプロセスはずいぶん時間がかかりますが、それだけの価値はあるのでしょうか。匿名希望(セントルイス)
「360度フィードバック」として知られる作業のことを言っておられるのだと思いますが、これは20年ほど前に初めて登場して、以後、ビジネス界全体に広まっています。
それには十分な理由があります。360度フィードバックは、同輩や部下に苦痛を与える行動について人々に警告を与えるための、わかりやすい方法なのです。
かつて参加したリーダーシップ研修プログラムで、技術系企業の中間管理職の人が360度フィードバックの結果を見てショック状態に陥るのを目の当たりにしたことがあります。その結果はマイナス評価の紛れもない大合唱だったのです。
「ありえない。私は部下たちに愛されているのに」というのが、そのマネジャーの反応でした。彼はこうも言いました。「彼らは書き間違えたにちがいない」と。
もちろん、部下の書き間違いなどではありませんでした。
同僚同士の「交渉」が評価を歪める
360度フィードバックの大きな問題点は、それを2度ほど実施したら、その後は必ずごまかしが行われるようになることです。同僚同士の交渉によって、評価の結果が大きく歪められてしまうのです。
互いに評価し合う者同士が「核抑止条約」を結ぶと、すべての「フィードバック」が同じような内容のものに、つまり肯定的なものになっていきます。こうした行動をとるのは、人間社会においては自然なことかもしれませんが、それを放置すれば、このプロセスが何の役にも立たないものになってしまいます。
世にごまんといる360度フィードバックの推奨者たちが、このシステムには「安全装置」があると主張していることは知っていますし、たしかに安全装置があります。しかし、あなたが尋ねておられるのは、これだけ時間のかかるプロセスを実施すること自体にはたして価値があるのか、ということですよね。
それに対しては、従来の評価方法、つまり上司が部下を評価するというやり方が、やはり文句なしに優れていると言わざるをえません。この方法は大体においてうまく機能し、誰にとっても時間の節約になり、きわめてごまかしにくいものです。
ですから、あなたの会社に対しては、360度フィードバックを完全に廃止してしまうのではなく、数年に一度の実施にとどめることをお勧めします。360度フィードバックの最大の価値は、普段は表立って語られないことを引き出すことです。いったんその目的が達成されてしまうと、あとはほとんどすべての人がごまかしに加わるようになります。