口先だけで支持を得ようとするポピュリストたち
他方で、シリザが他の左派政党と連立を組むことで、一転してツィプラス首相が続投する展開もあり得る。中道左派政党の「変化のための運動」や最左翼政党の共産党がそのパートナーになるだろうが、それでもNDの獲得議席を上回ることができるかどうかは微妙な情勢である。
極左政党として反緊縮をうたい華々しく登場したシリザのツィプラス政権であるが、実際に国政を担うと極左的な主張は手控えられた。むしろその政権運営は、かつての有力な中道左派政党であり、自らがその解散に追い込んだPASOK(全ギリシャ社会主義運動)とあまり変わらなかった。
今回の総選挙で敗北しても、PASOKに代わる有力政党としての地位を確立したという意味に限れば、シリザによる政権運営は一定の成功を収めたという評価が成立する。他方でシリザによる国政運営の経験は、結局のところ、ポピュリスト政党による主張の実現可能性が低いという事実を物語る先駆的な例だ。
民族主義的なポピュリスト政党は左右の立場を問わずEUに対して否定的な主張を行い、バラマキ色の濃い政策を打ち出して有権者の人気を得ているが、一方でEU加盟国、特にユーロ加盟国の経済運営はその良しあしは別としてEUに非常に高度なレベルで組み込まれており、各国の政権ができることにはおのずと限界がある。
ユーロ離脱が不可能という事実
例えばEUでは財政出動のルールが厳しく制約されている。それに違反しようものならEUから制裁金が課されるし、なにより長期金利が上昇して国債を発行することが難しくなる。ではEUから離脱すればいいかというと、通貨を共有していない英国でさえ醜態を見せる中で、通貨を共有しているユーロ圏ではなおさら困難だ。
実際にシリザ政権も、ユーロ離脱を模索したことがある。もっともユーロから離脱して新通貨を発行した場合、激しい通貨危機に陥ることが明白であった。そうなれば強烈な緊縮で疲弊しきっていた経済に致命的なダメージが加わると予想されたため、シリザもまたユーロ離脱に踏み切れなかったわけだ。
ポピュリストたちは分かりやすい主張で有権者を扇動する。ギリシャのように苦難が続いた国の場合、有権者がわらにもすがる気分で彼らを指示するのも無理はない。ただポピュリストが解決策として提示するバラマキ策は実現可能性が低く、いざ実際に政権を担わせてみると全く機能しない。この段階になってようやく有権者の目が覚めるのかもしれない。