いま世界中で「スタートアップ」が注目を集めている。特に人気なのが、起業して、著名なアクセラレーターに支援してもらうことだ。東京大学でスタートアップ支援に従事する馬田隆明氏は「お金を払ってMBAを取得するより、少額の投資を受けながら事業を学ぶほうが、キャリア形成にプラスと考える人が増えている」という――。

※本稿は、馬田隆明『逆説のスタートアップ思考』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/metamorworks)

世界中で「起業」に注目が集まっているワケ

なぜ今、スタートアップが注目を集めているのでしょうか。

その一つの理由は、世界中でイノベーションが求められており、その効果的な手段であるスタートアップへの期待が高まっているから、と言えるでしょう。

現実として各国政府は経済成長の施策の一つとして、スタートアップや起業を振興しています。大企業も、自社だけでの研究開発に限界を感じつつあるのか、新たなイノベーションの種を見つけるべく、「オープンイノベーション」という名の下にスタートアップとの連携を始めました。

こうした動きの背景として、技術の多様化や進歩の速さ、短期間で成功を収める新興企業が続々と生まれていることがあるでしょう。そして同時に、スタートアップが成長を遂げやすい環境が整った、という事情もあるかもしれません。

たとえば起業をするために必要となる、いわゆるイニシャルコストはここ数年で劇的に下がりました。ソフトウェア関係の起業なら、パソコン1台あれば、サーバーはクラウドプラットフォームを使うことで、すぐにサービスをリリースすることもできます。またソフトウェアの進化に合わせ、様々なテクノロジが、より安価かつ迅速に入手できるようにもなりました。

起業家の手に「カネ」が渡りやすくなった

そしてグローバリゼーションの発展によって、世界中の市場にアクセスできるようになっています。たとえばもしスマートフォンのアプリケーションをリリースした場合、それこそ世界中のスマートフォンユーザーからアプリを購入してもらえる環境が整いました。同様に流通や物流も進歩し、やはり世界中の顧客から購入してもらいやすくなったため、急激な事業拡大も可能となっています。

このように、小さく始めつつ短期間で事業をスケール(拡大)しやすい環境ができあがりつつあることが、スタートアップという事業形態をより行いやすくしています。

さらに、国単位でのスタートアップへの支援環境も整いつつあります。

日本国内を見ただけでも、直接的に国や大企業からの支援制度が充実しつつあるほか、金融環境の変化で、スタートアップに資金を投資するベンチャーキャピタルへとお金が集まるようになりました。その状況下で、スタートアップを始めるために必要となる「リスクマネー」が起業家の手に渡りやすくなり、結果として環境が整ったのです。

アメリカや日本といった先進国において、スモールビジネスを含んだ起業そのものの数は減少傾向にあるようです。しかし各方面からの後押しもあり、急成長を目指すスタートアップについては、勢いがますます増していると考えられます。