イノベーションは3種類ある

──本書では繁栄を「多くの地域住民が経済的、社会的、政治的な幸福度を向上させていくプロセス」と定義していますね。日本のように過去25年間、経済成長できずにもがいている国は、この3つの側面のうち、どこから手をつけていくべきですか?

【クリステンセン】3つは互いに連係しています。ひとつが花開けば、他を支えます。もっとも、経済的側面がすべてのきっかけとなると言えるでしょう。経済が繁栄すると、その状態を維持するために周辺の社会的・政治的な状況が整備されるのです。

──消費経済は、無視しにくい魅力を持っています。どうすれば政治家や政策立案者、さらにはビジネスパーソンに、無消費経済をターゲットにするよう訴えられるでしょうか?

【クリステンセン】政策立案者やビジネスパーソンにとって最も重要なことのひとつは、イノベーションには種類があると理解することです。持続型、効率化、市場創造型という3つのイノベーションはどれも重要ですが、それぞれ別々の役割を持ちます。この中で、市場創造型イノベーションだけが持続的な経済発展につながる役割を果たし、他の2つは消費経済を対象にします。いわば既存顧客の維持、または製品の価格を下げる努力といった文脈でのイノベーションです。企業の継続的な成長にはどちらも大事ですが、新たな収入源としては期待できません。真の成長は、無消費の状態にある顧客を発見することから始まります。これらの顧客は自らが直面する課題を解決するために苦心していて、何かしら手頃な価格で身近な解決策が現れるのを待っています。市場創造型イノベーションは、まさにこれを成し遂げ、顧客がまだ見えていないところに市場をつくり出すのです。

もし、イノベーション活動は活発なのにもかかわらず国の繁栄がストップしているようならば、それはイノベーションの種類を間違えているという問題かもしれません。政策立案者やビジネスパーソンなど、経済発展の意思決定に携わるステークホルダーたちがこのことを理解すれば、よりよい判断ができるのではないでしょうか。

“ゆとりや遊び”は社会が繁栄している証

──言い換えると、効率化イノベーションと持続的イノベーションは過大評価されていますよね。例えば、日本は効率的な国だとは思うのですが、“ゆとりや遊び”が少ない社会のように感じます。

【クリステンセン】効率化イノベーションも大事です。製品やサービスをより効率的に提供できるようにすることは、他のことに取り組むための資源を生み出します。その資源が新たな成長を生み出しえるのです。ただし、その資源が何に投資されているか、注意する必要があります。もし、効率化イノベーションや持続型イノベーションに再投資しているなら、同じことの繰り返しになってしまう。一方で市場創造型イノベーションに投資をすれば、劇的に状況を変える可能性があります。ある特定のイノベーションにだけ取り組むことは、他のイノベーションを阻害することもあり、その意味でも注意したいところです。加えて“ゆとりや遊び”は社会が繁栄している証だということも指摘できます。