“やらされ仕事”に全力で取り組んだ20代
もう1つは、20代後半の頃に突然言い渡されたセミナー講師です。私は事務職で採用されていたはずでしたが、人事異動で上司が変わった途端、「今日からは営業(直接会社に利益を落とすような業務)をやってもらう」と、マネーセミナーの講師を命じられたのです。
ところが、当時の私は人前で話す経験など皆無。まして金融系の会社に勤めてはいますが「お金の話なんて、逆立ちをしてもできるわけがない!」と絶望的な気持ちになりました。だからといって退職する勇気もありません。
どちらも上司の指示ですから、いくら愚痴を言っても締切はやってきます。そのうち、やるしかないと腹を括り、できるかぎりの練習をしようと頭を切り替えました。すると不思議なもので、自ら主体的に勉強を含めた準備をしてどうにか場数を重ねていくうちに、いつの間にかセミナー講師の仕事を楽しめるようになっていたのです。
あ、あの時の経験が今の仕事につながっているな――。そう気付いたのは、随分時間が経ってからでした。
「どうしよう」と半べその状態でやらされた仕事でも、全力を注いでみると、後に思わぬ武器になることがある。人生とは本当にわからないものです。
気づけば「自由」になっていた
もちろん、社内メールもセミナー講師も、最初からうまくこなせたわけではありません。たまにメールを誤配信してしまうこともありましたし、セミナーでうまく話せず、後から上司に叱られることも多々ありました。毎日が反省ばかりで辛いことだらけ。
しかし、これらも含めた実体験を通じて私は、仕事を楽しく感じるようになりました。何かに真剣に打ち込んでいると、結果に関わらず、自分自身に対する信頼や自信が生まれます。そうなると自己肯定感が高まり、「周りの目を気にせず行動する力」が強くなります。
新入社員だった頃には想像もできませんでしたが、こうした“やらされ仕事”に打ち込んだ経験が私の資源となり、今ではお金と交換できる手段になりました。例えばこのコラムのように、メディアに寄稿させていただく機会も増えてきましたし、最近では面識のない方からの執筆依頼や、SNSでの発信がセミナーの仕事に繋がるケースも少なくありません。
本業で会社員をしているため、執筆も講師もあまりたくさんはお受けしていないのですが、本業以外にも収入を得る手段があることで、精神的にも経済的にも安心感が増しています。気がつけば、ずっと目指していた「自由」に、少しずつ近づいているわけです。