では、なぜ誤った事実による地方創生政策が推進されたのであろうか。この点についても八田氏の見解は明瞭だ。

「要するに地方バラマキ政策は昔からあるわけです。田中角栄首相のときに、国土の均衡ある発展と言って頑張ったわけですね。また、農業の補助などで生産性が高い都市から税金を取り上げて地方にばらまく行為は1960年代から行われています。今回は目先を変えて、その名目として出生率を使っただけです。地方にばらまくことが目的なので、それが失われれば別な理由がまた出てくるでしょう。だから、僕は怒りまくっているわけです」

増田レポートを受けて全国の地方自治体では「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、人口目標などを設定してきた。その根幹のあるべき姿を見直す議論が必要なのかもしれない。

74%の自治体で、市町村民税総額が人件費を下回る

地方自治体は、なぜこのような中央政府からのバラマキ政策を無批判に受け入れるのか。国政における地方偏重の議席構造などはあるものの、その手掛かりは地方財政の現状からもうかがい知ることができる。

アジア成長研究所理事長で、政策研究大学院大学元学長の八田達夫氏。「地方創生政策はバラマキ政策です」

地方財政の現状は中央政府からの財政移転がなければ、そもそも全く成り立たない設計となっている。16年度の地方自治体の決算カードによると、地方自治体は職員人件費すら自前の税収で支払うことが厳しい状況となっていることがわかる。

たとえば、全国1741市区町村のうち、地方税総額(市町村税)を上回る人件費を支払っている地方自治体は約29%、市町村民税総額(個人・法人合計)を上回る人件費を支払っている地方自治体は約74%となっている。最大で地方税の約8倍、市町村民税の約20倍の人件費が支払われている地方自治体も存在し、住民が毎年納めている地方税を職員給与のために支払っていることも、ザラだ。

これらの地方自治体は中央政府からの財政移転である地方交付税や国庫支出金によって、自治体運営の資金の多くを賄っている。日本の地方財政は地方自治体が中央政府に依存することを前提とした仕組みとなっている。

もちろん地方自治体が財政的に破綻することなく運営されているので、現状の日本のような地方財政の仕組みを採用することも1つの考え方と言えるだろう。しかし、地方自治体の中央政府への財政依存は、地方自治の精神を確実に蝕むとともに、地方自治のあり方そのものを根幹から事実上の骨抜きにしている。

日本の地方自治体が住民らに課している地方税には標準税率が設定されている。財政的に中央政府に依存する地方自治体は、地方税を標準税率以上に上げることはできるが、それを引き下げることは極めて困難である。