対中制裁はアップルのイノベーションを抑制する

米中の貿易戦争は、今後の世界経済に大きなマイナスの影響を与える恐れがある。5月13日、トランプ大統領は対中制裁関税の第4弾の内容を明らかにした。この制裁関税が本当に発動されると、企業は関税引き上げによるコストの増加を、製品などの販売価格に転嫁する可能性が高い。

第4弾の対象品目を金額ごとにみると、アップルのiPhoneをはじめとする携帯電話432億ドルが含まれる。アップルが貿易戦争にどう対応できるかは、米中の摩擦激化の影響度合いを考える上でとても重要だ。現在、アップルにはかつてのような勢いはない。

発売された米アップルのスマートフォン「iPhone」の新型モデルを購入した人たち=2018年9月21日、東京都渋谷区(写真=時事通信フォト)

主力のiPhoneの販売は増えていない。これは同社のビジネスモデルが転換期を迎えていることを意味する。本来であればアップルはiPhoneに関して価格競争に対応しつつ、新しいヒット商品の創造に全力で取り組みさらなる高成長を目指したいだろう。

ところが、トランプ大統領が打ち出している対中制裁は、アップルなどのイノベーションを抑制する恐れがある。米国が中国製品に制裁関税をかけると、間違いなくアップルはコスト増加やサプライチェーンの混乱に直面する。その中で、新製品を開発することは容易ではない。トランプ大統領はそれを十分に理解しているのだろうか。

iPhoneは中国で組み立てられ、世界各国に出荷されている

トランプ政権が公表した第4弾の対中制裁関税の最大のポイントは、米国が中国から輸入する消費財が制裁関税の対象に含まれることだ。第1~3弾までの制裁関税(2500億ドル)では、輸入額に占める19%程度が消費財だった。個人の消費に対するマグニチュードはそれなりに抑えられてきたとはいえる。

残り3000億ドル程度の対中製品輸入に25%の制裁関税がかけられた場合、対象となる輸入額の40%が消費財だ。その中でも、iPhoneをはじめとする携帯電話の輸入額は大きく、対中依存度も高い。これは世界経済に重大な影響を与えかねない。

世界各国の経済は密接につながっている。多くの企業が相対的に人件費などの安い新興国などで消費財を生産している。アップルは、その取り組みを推進した先駆けだ。

アップルはiPhoneなどのハードウェアの開発ではなく、ソフトウェアの創出に注力している。そのためiPhoneに使われる部品は、わが国や台湾など世界各国のサプライヤーから調達する。それらはアップルの仕様に基づいて、中国にある鴻海(ホンハイ)精密工業の工場で組み立てられている。中国で組み立てられたiPhoneは米国をはじめ、世界各国に出荷される。