「ダ埼玉」という言葉が生まれるほど、埼玉県には華やかなイメージが乏しい。そこでも開発が遅れ気味で、地価も安いのが東京北西部とを結ぶ西武線沿線だ。しかし、西武ホールディングスの後藤高志社長は「所沢駅では乗降客が増加しており、周辺の“億ション”が完売した。西武線沿線は他私鉄にないアドバンテージがある」と胸を張る。その背景とは――。

3つのグループ本社が悲願の池袋移転

――4月に西武ホールディングスなど西武グループ3社が池袋の高層ビル「ダイヤゲート池袋」に本社を移しました。池袋を拠点に攻めの経営に向かうのですか。

撮影=安井孝之

グループを統括する西武ホールディングス、ホテルチェーンの「プリンスホテル」、不動産会社の「西武プロパティーズ」の本社を、所沢から池袋に集めました。西武鉄道の本社は埼玉県所沢市に残していますが、鉄道の一部の機能も池袋に移しました。

西武グループ再建前の2003年にグループの司令塔だった「コクド」が東京・原宿から所沢に移転して以来、大半のグループ企業は所沢で業務をし、経営再建を進めてきました。14年に東証1部への再上場を果たし、新たな成長ステージに入っていました。今回の池袋への集約で、攻めの経営体制が固まったと思います。

――後藤社長は、2005年にメインバンクから再建のために西武に移られました。本社移転は悲願だったのではないですか。

西武鉄道の本社は、1986年までダイヤゲートが立つ今の場所にありました。その後、所沢に移り、貸しビルとして使われましたが、私は西武に来てからずっと池袋の地に新本社を建てたいと思っており、2012年7月に旧本社ビルの建て替え計画を発表しました。

その後、米投資ファンド、サーベラスが当社に対し公開買い付け(TOB、Take-Over Bid)を仕掛けてきたので、その対応を余儀なくされましたが、そうした難題をクリアしつつ、新本社ビルの建設と本社移転をほぼ予定通りに実現できました。

他私鉄にない西武線のアドバンテージとは

これまでグループ各社の本社機能は都心から少し離れたところにあり、お取引先を含めたさまざまなステークホルダーにはご不便をおかけしました。今回、池袋に拠点が移ったことで、コミュニケーションも円滑になります。グループ内のシナジー効果も高まります。

――東京の私鉄沿線の中で、西武線沿線はこれまで開発が遅れ気味で、他の私鉄沿線の人気の方が高かったように思います。少子高齢化が都心部でも進んでいきますが、今後巻き返しはできるでしょうか。

東京、埼玉に広がる西武線の沿線人口は548万人余り(2015年)です。埼玉地域は横ばいですが、都内は今も伸びている。確かに、長期的には西武線沿線にも少子高齢化の波は来ます。東京のどの私鉄も今後、沿線人口を大きく減らさないかが課題です。私は、西武線沿線が他の私鉄沿線に比べ開発余地がまだあり、アドバンテージがあると考えています。

――何がアドバンテージになるのですか?

西武線沿線は実は防災上、優位性が高い地域なのです。地盤の調査・解析などを手掛ける「地盤ネット」(本社・東京都)が東京のJR、私鉄沿線の地盤を調べたところ、地盤の強さは西武池袋線がトップで西武新宿線が第2位という結果が出ました。