番組を見た人からは「毎回素人を相手に、よくあんなに面白い話を引き出せますね」と言われるのですが、それは私が出演夫婦に対して、心から関心と好奇心を持っているからなのでしょう。無愛想で喋らない旦那さんなら「なんでわざわざテレビに出はったんやろう?」と不思議に思って聞いてみる。そこから面白いエピソードがバーッと出てきます。真面目そうな人のネクタイが歪んでいたり、ズボンがシワだらけだったりすると、それだけで面白いものです。

出演する夫婦が準備をしていないであろう意外な質問をぶつけると、隠れた人間性がどんどん表れてくるのです。それが自然にできるのは、恐らく私が落語家であることと関係があると思います。落語というのは、市井の人の暮らしの中から面白さを見つけてネタにする芸能です。落語的な世の中の見方をすると、あらゆることに面白さを見つけることができる。「面白くない人」でも、その「面白くなさ」で面白くできるのですね。

漫才にも活かせる、フィギュアスケート

相手への好奇心を持ち続けるためには、自分自身が世の中のあらゆることに対して興味を持ち、勉強を続けることが大切だと思います。

先日も『グリーンブック』という映画がとても面白いと聞いたので、次の日に朝一番で映画館に観に行きました。また、フィギュアスケートの大会も、それまでテレビでしか見たことがなかったのですが、知人から誘われて行き、勉強になりました。出場する選手は自由演技の4分間で自分のすべてを出し切って表現します。4分間というのは、「M-1グランプリ」の決勝で漫才師に与えられている時間と同じです。中には「4分だけでは短くて笑いがとれませんよ」などと言う人もいますが、フィギュアの選手ぐらい凝縮した演技をしているか、そう振り返る機会になりました。

いろんな場所で見たり聞いたりしたことが、そのまま自分の仕事のネタにもなれば、初対面の相手とコミュニケーションするときの話題にもなります。そんな自分自身の「引き出し」の中身を充実させることが、礼儀やマナー以前に、相手と良好な関係を築く根本にあるような気がします。

テレビの世界は今、Netflix(ネットフリックス)やAbemaTVなどの登場で、大きく変わろうとしています。小中学生の間では、テレビの芸人より人気があるユーチューバーも出てきています。そういう新興勢力の作り手は、既存のテレビ番組や映画をものすごく研究して、NetflixはAI(人工知能)なども活用して視聴者が好む番組を分析し、自分たちでさらに面白いものを作り出そうと日夜努力を続けています。テレビの視聴者や寄席に来てくれるお客様のことを第一に考えて、どうすれば楽しんでもらえるのか、好奇心を持って勉強を続け、工夫を重ねることが、芸能界で長く活躍できる条件だと私は考えています。

桂 文枝(かつら・ぶんし)
落語家
1943年、大阪府生まれ。桂三枝として『新婚さんいらっしゃい!』などの司会で高い人気を得る。同番組で同一司会者によるトーク番組の最長放送世界記録保持者(現在も更新中)。2012年7月、六代桂文枝を襲名。
(構成=大越 裕 撮影=福森クニヒロ)
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