「ネム」盗難事件で法規制が厳格化

しかし、日本でブロックチェーンを活用したビジネスをはじめようとすると、資金決済法などのハードルがあります。

高榮郁『トークンエコノミービジネスの教科書』(KADOKAWA)

2018年1月に仮想通貨取引所のコインチェックから約580億円相当の仮想通貨「ネム」が盗難された事件を契機に、仮想通貨交換業者の登録が厳しくなりました。さらに、2019年3月15日に閣議決定された資金決済法などの改正案では、仮想通貨への規制強化がもりこまれました。

持続可能なトークンエコノミーを構築する際、発行するトークンが「法定通貨や他の仮想通貨(=トークン)と相互交換可能」ということは重要です。しかし、これを行おうとすると、資金決済法に従って、仮想通貨交換業者としての登録が必要になります。しかし、いまの日本ではその登録が簡単にはいきません。

一方で「日本円での売買は一切しない」というトークンであれば、資金決済法の適用外となり、この場合、仮想通貨の際に求められる登録は不要です。イメージとしては、JR東日本のSuicaや、セブン&アイ・ホールディングスのnanacoなどのような「電子マネー」の設計が近いでしょう。つまり、「法定通貨で購入し、決済手段として使用できるが、法定通貨へは交換できない」というトークンです。

※2019年4月時点のものであり、今後法律などが変更される可能性があります。

日本は仮想通貨後進国になってしまうのか

といっても、これまた一筋縄ではいきません。資金決済法では「電子マネー」についてのルールも規定しており、設計によっては、内閣総理大臣の登録を受けることなどが必要になります。こうした手続きの煩雑さが、日本でのトークンエコノミーの発展を阻害しているともいえるのではないでしょうか。

本来は決済手段であるビットコインなどの仮想通貨が、投機の手段とばかり捉えられてしまったり、詐欺まがいのICOなどが横行してしまったりしたのは残念です。

しかしこのままでは、世界に先駆けて仮想通貨の先進国になっていた日本が、後進国に成り下がってしまうのではないか……と懸念を感じてしまいます。韓国や台湾、東南アジア諸国で、先進的なブロックチェーンプロジェクトが進められているにも関わらず。

ただ、海外の事例を見てみると、実は、日本にこそ適しているブロックチェーンを活用したビジネスの形がたくさんあると考えています。