クアルコムの株価は2割高、アップルの株価は変わらず

5Gのチップセットを供給できるのは、世界に5社しかない。米国のクアルコムとインテル、中国のファーウェイ、韓国のサムスン、台湾のメディアテックだ。そして、家庭用ルーター用ではなく、スマートフォン用の5Gチップセットとしての性能をクリアしているのは、現状ではクアルコムだけだ。

5社のうちサムスンは自社製スマホ「ギャラクシーS10・5G」の発売当初、クアルコムのチップを採用する予定ということで、開発が遅れている。インテルとメディアテックも同様に開発が遅れており、ファーウェイは中国企業なので米国企業であるアップルは搭載できない。

クアルコムがNGとなれば、米国企業であるアップルが頼れるのはインテルしかなかった。だがインテルの5Gは開発が遅れている。MWCに来ていた携帯ジャーナリスト・山根康宏氏は「外付け5Gモデムはともかく、チップセットとなると、まだインテルは性能が十分ではないようです。またインテルとアップルが蜜月かというとそうでもない」と話す。

アップルが5Gチップを自社開発するという選択肢はなかったのだろうか。2月、アップルの株主総会で、ティム・クックCEOは「今、着手したとしても3~4年はかかる」と述べている。つまり、アップルにはクアルコムと和解するか、インテルの開発スピードの改善を待つしか方法がなかった。

和解を発表した直後、クアルコムの株価は2割強も値を上げたが、アップルの株価はほとんど変わらなかった。アップルにとって、クアルコムとの和解は苦渋の決断だっただろう。

iPhoneの課題は「5G対応」だけではない

だが、iPhoneには「5G対応」以外にも課題が多い。山根氏はこう話す。

「スマートフォン市場は、中国など人口の多いアジアが軸となっています。しかしiPhoneの商品づくりは欧米に向いたまま。たとえばカメラは、欧米ではナチュラルな色が好まれますが、アジアでは誇張したテイストが好まれます」

2018年の世界のスマホ出荷台数は14億2000台で、そのうち4億台を中国が占めている。アップルの世界への出荷台数は2億台にすぎず、マーケットを支配するだけの力はない。

またデザインにもかつてほどの差がないという。

「たとえばファーウェイはデザインが向上しています。同社は2015年にアップル出身のデザイナーAbigail Sarah Brody氏をUXデザインのバイスプレジデントとして招聘しています。またチーフデザイナーには『世界のトップデザイナー&インフルエンサー100』に選ばれたMathieu Lehanneur氏を起用しています。アップルの技術革新のスピードが遅いというよりは、むしろ世界の追い上げのスピードがすさまじいのです」(山根氏)