モンスター化したトップマネジメントを統御することははなはだ困難である。より具体的にいえば、コーポレート・ガバナンスを完遂する経営上の仕組みをいかに精緻に組み上げても、それを機能させることは困難を極めるということである。

だとすれば、どのようにして暴走を食い止めればいいのだろうか。それができない場合には、どのようにして問題のある経営者を組織から排除すればよいのだろうか。

模範的な暴走抑止体制はなぜ機能しなかったのか

数度にわたる逮捕を受けて、日産自動車はカルロス・ゴーンの取締役解任を取締役会で決議し、株主総会で議案は承認された。この一連の流れに大きな違和感を持つ。解任決議に先立って、株主は、監査役会が容疑事実のめぐる内部監査能力が機能しなかったことを疑問視しなくてよいのだろうか。

今回の場合、代表取締役を取り締まるという責務を負っている取締役がその任を十分に果たしていなかったことは明らかである。それにもかかわらず、どうして、会社法の善管注意義務違反を追及しないのだろうか。また、コーポレート・ガバナンスに関する組織体制に不備があったとしたら、なぜそれを指摘しないのだろう。

いや、図表1に見られるように、日産自動車においては、模範的ともいえるほどコーポレート・ガバナンスに関する組織は整備されていたのである。

監査役会(社外監査役を含む)、内部統制委員会、グローバル内部監査室、コンプライアンス委員会、グローバル・リスク&コンプライアンス室等のコーポレート・ガバナンスを担う部署は、相互に連携し、監査と報告を行う仕組みとなっている。取締役会(社外取締役を含む)から独立した内部監査を行う体制も構築されている。複式簿記による会計システムは、粉飾等の会計不正を排除するメカニズムを内蔵している。加えて、会計処理の適切性は会計監査人の監査によってチェックすることができるのである。

結論から述べるなら、コーポレート・ガバナンスの体制が整備されているだけでは、今回のような事件を未然に防ぐことはできない。多くの企業で問題が生じた場合、それを解決するために組織整備を行い、それをもって解決策とする傾向がある。このような対応をとるにも関わらず、類似の、あるいは新たな問題が幾度となく発生することを私たちは知っている。