海外市場に活路を見出す

不動産業界に目を転じると、10年3月期の決算は、大手5社のうち三井不動産が、経常利益で35.7%減の939億円、住友不動産が、11.5%減の1004億円と、赤字こそまぬがれたものの減益になっている。理由としては、新築マンションの在庫や賃貸オフィスの空室率の高さなどが挙げられるが、それも緩やかに回復しているという。

不動産経済研究所の調べによると、09年、首都圏の新築マンションの新規契約率は、月平均で69.7%、対前年比7ポイント増になった。業界が好不調の分かれ目とする70%にほぼ戻りつつある。また、同年の販売在庫も7389戸と前年より5000戸あまり減っている。

この間、不動産各社は、資産の組み替えや投下資金の回収も積極的に進めてきた。例えば、三井不動産は、所有するオリエンタルランド株の一部を手放し、関連会社から外した。住友不動産も、上場子会社だったユニバーサルホームを分離独立させた。そのうえで、今後の収益の柱となる新規事業も動き出している。三井不動産が、伊藤忠商事などと共同で中国でのアウトレット事業に取り組んでいる最中だ。

そんな動きを背景に、不動産各社の平均給与は、三井不動産の1103万円(前年比6万円増)を除いて、前年割れを示しているが、水準そのものは高い。三菱地所の1095万円(44万円減)と野村不動産HD1006万円(63万円減)が1000万円台を維持した。

建設、不動産に見られるのは、これからの“主戦場”は海外になっていくと予想される。国内市場が縮小しているからで、これはマンション・住宅も同じだ。各社の賃貸住宅や分譲マンションの中国等への進出加速がそれを物語る。

大和ハウス工業は、上海や蘇州での賃貸・分譲住宅事業に加え、大連では総事業費およそ800億円を投じて「大連医科大学跡地プロジェクト」のような住・商一体施設の開発も手がけている。もちろん、今回の尖閣諸島にからむ領土問題といったリスクはあるにしても、果敢な海外戦略を展開している。

同社の場合、683万円と前年より29万円下がり、700万円台を割り込んでしまった。営業の第一線で指揮を執る幹部社員は「20年ほど前のバブル崩壊後もガクンと落ちた。その後、V字回復をしたのに、今回のマンション不況。しかし、逆境でこそ踏ん張るのが当社のDNA」と話した。

建設と不動産は、いわば国民の財産を形にする業界だ。それぞれが抱える裾野も広い。それだけに、他業種への影響も少なくない。これからの活路にしたい海外にしても、急激な円高はマイナスだ。まだしばらくは厳しさが続きそうだ。

※すべて雑誌掲載当時

(宇佐見利明=撮影)