地獄に送るべき人間を放置すると「この世は地獄」

バブル崩壊後、日本が「失われた10年」を経験したのはそのせいだ。それが「失われた20年」に延び、いまは「失われた30年」に突入している。そして、リーマンショック後のアメリカでも同じことが起きた。破産させるべき企業を救済し、刑務所に送るべき人間に退職金を保証した。結果、アメリカは有史上最大の債務国と成り果てた。もはや、アメリカの企業は世界で競争することができなくなっている。イギリスも同様だ。足取りをふらつかせるほどの対外債務があるが、イギリス政府は企業を倒産させようとしない。

「破産なき資本主義は地獄なきキリスト教」と、イースタン航空(1991年に経営破綻)のCEOであったフランク・ボーマンも言っている。地獄に送るべき人間を放置しておくと、この世は地獄そのものになる。

日本・アメリカと逆の例もある。スウェーデンは1990年代初頭、アメリカと同じような不動産バブルで経済破綻を経験したが、政府は過剰な救済措置を取らなかった。そのため2~3年はたいそう悲惨な時期が続いたのだが、その後は一転、好景気に沸いた。いまやスウェーデン経済の健全さは世界屈指である。1994年のメキシコでも、1990年代末のロシアやアジアでも、同じようなことが起きている。どの国も最悪の状態を経験し、それを抜け出してきたからこそ、信頼に足る成長国として台頭したのである。

中国にも、どうかそうであってほしい。中国政府の言葉が単なる脅しではなく、本気であることを望んでいる。救済措置を取らないことは、私を含めて多くの人を怖がらせるだろうが。

中国政府が少子化や格差より解決すべき問題

 とはいえ、いまの段階では、中国の経済は保護されすぎていると言わざるを得ない。たとえば日本で株を買いたければ、電話一本で買える。ドイツでも同じだ。しかし中国では、それができない。

ジム・ロジャーズ著、大野和基訳『お金の流れで読む 日本と世界の未来』(PHP新書)

中国の株を初めて買った時のことだ。1988年、雑居ビルの中にあるちっぽけで散らかった取引カウンターで、事務員に株券を手渡してもらった。卒業証書のようにやたらと大きい、本物の紙でできた株券だった。株券にも受取証にも、偉そうな役人からハンコをもらわなければならなかった。

役人がやたらともったいぶってそろばんを弾いているので、「この間にも株価が上がってしまうから、早くしてくれ」と急かしたものだ。この光景を、私はいまだに覚えている。その頃と比べると、現在、特にこの15年間で株式市場はかなりオープンになったが、それでも他の国にはまったく追いついていない。

また、国内に多くの金が閉じ込められているのも大きな問題だ。日本では金銭を自由に国外へ持ち出せるだろう。自分の持ち金をどう使おうが、個人の自由だ。中国ではそれができず、国外に金を持ち出すのが非常に難しい。だから、不動産を買う以外に使い道がない。現在、不動産業界がバブル状態になっているのはこれが理由だ。中国政府はこのような歴史の残滓(ざんし)を一刻も早く解決しなければならない。いまは100年も前の1918年ではない、もう21世紀になって久しいのだから。

少子化や地方と都市の格差、借金という課題よりもまず先に中国が解決すべきは、この閉鎖された経済だろう。中国経済は、政府に操作されている部分が多すぎる。そもそも人民元という国の通貨が管理通貨なのだ。

世界的に見るといずれドル以外の通貨が基軸通貨になることは間違いないが、管理通貨である人民元がそうなるには、もっと自由に変動することができなくてはならない。

ジム・ロジャーズ
投資家
名門イエール大学とオックスフォード大学で歴史学を修めたのち、ウォール街へ。ジョージ・ソロスと共にクォンタム・ファンドを設立、10年で4200パーセントという驚異のリターンを叩き出し、伝説に。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論の教授を一時期務め、またテレビやラジオのコメンテーターとして世界中で活躍していた。2007年、来るアジアの世紀を見越して家族でシンガポールに移住。
大野和基(おおの・かずもと)
国際ジャーナリスト
1955年、兵庫県生まれ。大阪府立北野高校、東京外国語大学英米学科卒業。1979~97年在米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学ぶ。その後、現地でジャーナリストとしての活動を開始、国際情勢の裏側、医療問題から経済まで幅広い分野の取材・執筆を行なう。1997年に帰国後も取材のため、頻繁に渡航。アメリカの最新事情に精通している。
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