「東大病院はすでに経営破綻している」
東大病院の問題は、これだけではない。野放図なハコモノ投資も目につく。その中心が「病院地区再開発」と称し、敷地内に臨床研究棟や病棟などを新築していることだ。
『選択』2月号の記事によれば、2017年度、そのために119億円を支出した。このうち52億円を補助金や財政投融資で賄い、不足する67億円を大学本部から借り入れた。債務償還と併せ、2017年度に本部から83億円を補填された。過去の分と併せて、本部からの借り入れは総額138億円に達している。
この状況は異様だ。知人の税理士である上田和朗氏は「東大病院はすでに経営破綻している。この状況で、将来の経営の手足を縛るハコモノ投資をする理由がわからない」という。
東大本部の財務状況を考えれば、いつまでも東大病院の尻ぬぐいは続けられない。東大は1兆1,324億円の資産を保有するが、多くは処分できない土地や建物だ。現預金は1,227億円にすぎない。転売可能な有価証券や美術品・収蔵品を併せても1297億円しかない。
2017年度の東大の経常収益は2347億円で、このうち運営費交付金・補助金が929億円(42%)だ。政府は国立大学への運営費交付金を毎年1%ずつ減らす方針を示しており、80年後にはなくなる。
東京大学は明治時代に国庫から大学基本財産にしかるべき金額を組みいれ、その運用益によって大学経費を賄う基金構想が議論されてきたが、いまだに実現していない。東大の運用基金は2018年3月末現在で108億円で、運用益は9,100万円にすぎない。
392億ドルの基金を10%の利回りで運用し、18億ドルを大学の運用経費にあてるハーバード大学とは比較にならない。また、22億3700万ポンドの収益を、出版関係(7億9800万ポンド)、研究収益(5億7910万ポンド)、授業料(3億3250万ポンド)など多様な方法で確保し、政府からの補助金に依存しない英オックスフォード大学とも違う。
東大病院は医学部教授たちの私物ではない
少子高齢化が進むわが国で、政府からの補助金に依存する東大の経営基盤は脆弱だ。授業料を上げたところで、期待できる増収は20億円程度。東大が生き残るためには、赤字を垂れ流す病院を何とかしなければならない。
東大の存続のためには、東大病院を何とかしなければならない。その際、重要なのは国民視点で議論することだ。東大病院の多くの診療科は国民にとって必要不可欠でない。東大病院で無理にマイトラクリップ手術をせずとも、患者を榊原記念病院に送ればいい。経験の乏しい医師に手術されるのは患者も避けたいし、このような治療を止めれば、病院経営も改善する。
いっそのこと患者がこない不採算の診療科は閉鎖すればいい。看護師は他の病棟に異動すればいいから、雇用問題は生じない。結局、そのような診療科に固執するのは医師だけだ。このような状況はすでに職員も感じているようだ。現在の東大病院は「お医者さんのやりたい放題」(東大病院職員)という。
東大病院は明治以来、先人が築き上げてきた国民の財産だ。医学部教授たちの私物ではない。どうすれば、この財産を次世代に引き継げるか、いまこそオープンに議論し、時代にあった在り方を模索すべきである。
医療ガバナンス研究所理事長・医師
1968年、兵庫県生まれ。93年、東京大学医学部卒。虎の門病院、国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究する。著書に『病院は東京から破綻する』(朝日新聞出版)など。