地方の中小企業はベンチャーキャピタル(VC)からの出資を躊躇する。それはせっかくの成長機会を逃すだけではないか。そんな言葉に、福井でベンチャー支援を続ける岡田留理氏は「事業の目的は成長だけではない。家業を継いだ“後継ぎベンチャー”が、経営の自由を守ろうとするのは理解できる。ベンチャー支援の方法はひとつではない」という――。
第3回「福井ベンチャーピッチ」の様子(写真提供=ふくい産業支援センター)

地方のベンチャーが抱えていた課題

地方経済を救うのは“後継ぎベンチャー”だ」で紹介した福井ベンチャーピッチを、今月末に東京で開催する。東京をベンチマークにすることの限界を感じ、地方らしさとは何かを模索したからこそ実現できた今回の東京開催。そんな福井ベンチャーピッチという「場」そのものが、地方のベンチャー支援の縮図であり、地方の現実だ。福井ベンチャーピッチをきっかけに、地方のベンチャーのありのままの姿を、より多くの人たちに見てもらいたい。

ベンチャーピッチとは、ベンチャー企業とベンチャー支援者をマッチングする、ビジネス・プレゼンテーションの場だ。成長意欲の高いベンチャー企業が、自社の魅力や将来性について、ベンチャーキャピタルや金融機関などの前でビジネス・プレセン(ピッチ)し、スピード感をもって資金調達・販路拡大・事業連携等につなげていく。このようなピッチイベントは、都市圏を中心に盛んに開催されている。

一方、地方では、自治体を前にした補助金審査や委託事業獲得のためのコンペなど、プレゼンをする機会はあるものの、ベンチャーキャピタルや金融機関とのマッチングを目的としたビジネス・プレゼンの「場」は少ない。地方のベンチャー企業がどんなに素晴らしいビジネスモデルを持っていても、それを伝える場がなければ、ベンチャー支援者と出会える機会は限られてしまう。機会が少ないがゆえに、チャンスをつかめずに埋もれてしまうのはもったいないことだ。

福井県内初のピッチイベントを企画

そこで当ふくい産業支援センターでは、福井のベンチャー企業がチャレンジできる場を作ろうと、県内初のピッチイベント「福井ベンチャーピッチ」の企画に着手した。

前例のないピッチイベントの立ち上げ準備は苦労の連続だったが、「後継ぎベンチャー」という地方特有のベンチャー人材の金脈を見つけたことで突破口が開け、2017年10月に第1回福井ベンチャーピッチを開催した。福井のベンチャー企業5社が登壇し、ベンチャー支援者や一般聴講者らが多数集まる、活気のある場となった。

登壇企業からは「ビジネスの視座があがった」「いつか上場を目指したい」といった前向きな声をいただき、ベンチャー支援者からも「福井にこのような場ができるとは想像していなかった。ぜひ継続させてほしい」といった応援の声が多数寄せられた。

その後、福井ベンチャーピッチは、半年に一度の定期開催を実現させることに成功。福井のような地方でのピッチイベントの定期開催は全国的にも珍しく、多方面から取材や問い合わせを受ける機会が増えていった。