「成長意欲がない」と皮肉を言われても

そのような結果だけを取り上げて、「地方のベンチャーは成長意欲がないから」と皮肉られることも少なくない。出資の実績だけをもって「結局、福井ベンチャーピッチは結果を出せていないよね」と嫌味を言われたこともある。そんな時はいちいち、わかってもらえない悔しさともどかしさで落ち込んだり、結果を気にして一喜一憂したりすることもあるのだが、それでもなお、私が福井ベンチャーピッチという「場」を継続させることにこだわり続けるのには大きな理由がある。

これまで、福井のベンチャー企業には、ベンチャー支援者と出会うチャンスも、ビジネスを成長させるための選択肢も少なかった。それが、1年前に福井ベンチャーピッチという「場」が立ち上がったことで、各企業がビジネスモデルを見つめ直し、成長のための選択肢を増やし、悩みながらも着実に行動できるようになっていったのだ。

地方には地方なりのさまざまな状況が背景にあって、東京のように一足飛びにできることばかりではないが、福井のベンチャー企業を取り巻く環境は確実に変化し始めている。今がまさに過渡期であり、正念場なのだ。

勉強会や個別相談会でもベンチャー支援

そのため、福井のベンチャー企業には、福井ベンチャーピッチという「場」を通じて、直接金融だけでなく、間接金融や事業提携、販路拡大など、ビジネスを成長するための選択肢を幅広くつかんでもらいたい。今後、ビジネスの成長を決断する時に必要となるビジネスネットワークの構築をサポートしながら、次にチャンスをつなぐお手伝いをすることもまた、地方でピッチイベント運営する上で大切なことだ。

急拡大を目指す若いスタートアップが山ほどいる東京とは違い、地方の場合はベンチャーの絶対数が少ない。そのため、後継ぎベンチャーをはじめ、創業したての若者や中堅世代の起業家など、さまざまなタイプのベンチャー支援を同時並行で行う必要がある。

短期的な成果を焦らずに、経営者の状況や目的に応じて柔軟に支援できる仕組みを構築していかなければならない。そこで力を貸してくれたのが、地元のベンチャー支援者の方々だった。

現在、当センターでは、福井ベンチャーピッチを運営する傍ら、県内の上場企業の社長らを講師とした経営者向けの勉強会を行ったり、地元のファンド運営会社のベンチャーキャピタリストによる個別相談会を設けたりしている。先輩経営者の成功体験談や専門家のもつ豊富な事例を学ぶ機会を提供し、ベンチャー人材の育成支援を行っているのだ。