茨城県に年間約600組が撮影に訪れる結婚式場がある。最大の特徴は「インスタ映え」。映画のワンシーンのような美しい構図と仕上がりが、若いカップルの心をつかんだ。県外の顧客が85%を占めるという人気企画が生まれた背景とは――。
写真提供=リュクス

県外顧客が85%を占める茨城県の式場

「映画のような挙式写真が撮れる」と全国からカップルが集まる撮影スタジオがある。茨城県ひたちなか市のスタジオ「リュクス」だ。現在は年間約600組がここで挙式写真を撮る。この手法の撮影を開始した2015年度に比べて、4年で5倍となった。

リュクスの写真は、従来の「正面撮り」とはまったく違う。最大の特長は「花嫁のドレスがなびく」「大時計の前に2人が抱き合う」といった作り込んだ構図だ。マーケティング用語でいう「ベネフィットシーン」(顧客満足のシーン)を体現化した手法といえる。

運営するのは株式会社長寿荘。茨城県内でホテルやレストランを展開する、地域では知られた会社だ。撮影スタジオは同社が運営するホテル「クリスタルパレス」の中にあり、隣接して「アクアヴィータ」というウェディングハウスを備える。

興味深いのは、茨城県以外の顧客が85%を占めること。なぜ、そんなに県外からのお客が多いのか。

「インターネットの普及で世界中の情報が目にできるようになり、ウェディング関連も商圏が変わりました。昔の挙式は地域で行うものでしたが、今は違います。おしゃれでロマンチックな挙式写真を探された結果、『リュクスがいい』と選ばれるようになりました」

写真スタジオの仕掛け人で、長寿荘社長の海野泰司氏はこう語る。

「特に、結婚を意識しはじめる20代や30代の女性は、かっこいい写真、かわいい写真をインスタグラムやツイッターなどで目にしており、自分でも積極的に発信します。一方、婚礼写真業界は撮影ポーズも昔のまま。ここにビジネスチャンスがあると思ったのです」(同)

写真提供=リュクス

韓国では婚礼写真の工夫が先行していた

構想のきっかけは、韓国出張でのドタキャンだった。

10年ほど前、海野氏が韓国に行った際、予定がキャンセルとなり時間が空いた。そこで「最近はやっているものを見たい」と希望を出して紹介されたのが、ウエディングフォトのデジタル撮影だった。

「まだ日本の婚礼写真が、表情など瞬間的な撮影にこだわる時代に、韓国はデジタルの特長を生かした撮影技術を確立し、パソコンでレタッチ(画像修正)をしていました。日本のはるか先を行っており、その意識がずっと頭の片隅にあったのです」(海野氏)

だが同社は、最盛期には年間で1000組を超える挙式を行い、従来型の婚礼で成長した会社だ。しばらくは海野氏の構想として温める時期が続いた。その従来型挙式が徐々に減り、日本でも写真のデジタル化が進んできたことから、本格的な事業展開を始めた。現在、同社で扱う婚礼数は最盛期の約4割にまで減っている。撮影事業が下支えしなければ、同社の業績は厳しくなっていたはずだ。