旅先では「シングル2部屋」の夫婦

大江英樹『定年前 50歳から始める「定活」』(朝日新書)

私の知り合いの女性に旅行が趣味という人がいます。彼女は旦那さんともとても仲が良く、しょっちゅう一緒に旅行をしています。子どもも大きくなり、二人で旅行する機会が多くなる、言わば理想の中高年ライフと言ってもいいでしょう。そんな彼女が旅行をすると、宿を取る時、しばしばシングルを二部屋取ると言います。

日中は仲良く一緒に観光し、夜も一緒に食事を楽しんだ後、「おやすみなさい」と言ってそれぞれ別の部屋に分かれるというのです。別に夫婦仲が悪いわけでもなんでもありません。そのほうがとても気楽でリラックスできるからだそうです。

この話を同じ年代の女性の方々にお話しすると、何人かは「うちもそうですよ」という人がいますし、仮にそうしていなくても「その気持ちよくわかるわぁ、うちもできればそうしたい」と言うのです。ところが同じ年代の男性にこの話をすると「え! どうして?」とか「信じられない」という人が多いのです。

“適度な距離感”が良い関係につながる

これは別に夫が嫌いというわけではありません。

でも一緒の部屋だと、長年の習慣でついつい世話しなくてはと気になって落ち着かないと言うのです。だから一人の部屋でひっくり返っているほうが気楽でいい、となるわけです。

妻がそういう自然な気配りをしているということを、多くの男性はあまり気付いていません。だから「なぜ?」と思うし、逆に女性は「よくわかる!」ということになるのでしょう。これは、夫婦間に存在する大きなギャップとも言えるのではないでしょうか。

若い頃の恋愛時代ならともかく、年月を経て成熟した夫婦になった二人であれば、適度な距離感を保つことが、互いの気持ちを思いやり、尊重してあげることで良い関係が築けることにつながると考えておくべきでしょう。

大江英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト
専門分野はシニア層のライフプランニング、資産運用及び確定拠出年金、行動経済学等。大手証券会社で定年まで勤務した後に独立。書籍やコラム執筆のかたわら、全国で年間130回を超える講演をこなす。おもな著書に、『定年男子 定年女子』(共著、日経BP社)、『経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。
(写真=iStock.com)
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