法改正が後押しした「正社員との格差」
「なぜ、正職員と同じ仕事をしているのに、賃金はそれよりも低く、60歳まで非正規のままなのか」
この大きな矛盾は、実は法改正が後押ししている。
2013年4月1日から施行された改正労働契約法によれば、パート・アルバイト、派遣社員、契約社員などの呼称にかかわらず、1年契約や6カ月契約などの有期労働契約について、同一の使用者との間で通算5年を超えて契約が反復更新された場合、働く側からの申し出があれば、「無期労働契約」に転換する。
この法改正には2つの側面がある。第1に、3年や5年を上限に雇い止めに遭うことが多かった有期契約の労働者が、突然職を失わなくなるという一面だ。しかしその反面、正社員に転換されず、ずっと非正規のままとなる問題が隣り合わせとなっている。2018年4月には、法律の名の下で、ずっと非正規という大量の「無期雇用」が誕生することになってしまった。
健一さんも、そうした「無期臨時職員」の1人だ。雇用が続くだけいいかもしれないが、正職員との格差がついたままで、決して報われない。
妻は正職員の看護師のため、稼ぎ頭となっているが、健一さん以上の過密労働を強いられている。夜勤明けの場合、介護職は定時で帰宅できるが、看護師は看護記録など書類作成の業務があるため、昼近くまで残業ということもザラだ。妻も夜勤に入るため、月に2~3回はどうしても夜勤が重なってしまう。子どもが7歳と2歳で小さく、親と同居して面倒を見てもらいながら、お互いの夜勤をこなしている。
家計のため過重労働に耐える妻
妻は過重労働から「辞めたい」が口癖となっている。家計のために耐えているが、いつ離職してもおかしくない状況だ。妻もまた中年フリーターになるか、あるいは無職になるかの瀬戸際に立たされている。
女性の代表的な職業である看護師でさえ、そして雇用が安定しているといわれる自治体病院の正職員でさえも、人手不足から生じる長時間過密労働が原因となって、労働市場から退場を余儀なくされるケースは少なくない。ましてや、小さな子どもを育てている時期は、仕事との両立が困難だ。夜勤は、子育て中の女性の就業継続を妨げる大きなネックでもある。
そして看護師に限らず、妊娠すると解雇されたり、冷遇されたりする「マタニティハラスメント(マタハラ)」が横行し、4人に1人がマタハラに遭っている状況だ。女性の中年フリーターの存在は、結婚していることで問題が見えにくくなっているが、より個々の努力ではどうしようもない、長年にわたって蓄積された社会の無理解が根底にある。女性が働きたくても働けない理由として、20代後半から30代くらいの間で、マタハラによって職場を追われている事実があることは、決して無視できない。
労働経済ジャーナリスト
1975年茨城県生まれ。神戸大法学部卒業。株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年より現職。13年「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。著書に『ルポ 保育格差』など。