現在のトレンドは華麗な天主ではなく、山城の堀や土塁

特に近年人気となっているのが、姫路城や熊本城など華麗な天守を擁する近世城郭ではなく、戦国時代に各地の大名によって築かれた中世城郭です。その多くは小高い山頂に築かれた山城や平山城ですが、昭和の宅地開発ブームにさらされなかったそんな城でこそ、堀や土塁などの素晴らしい遺構を見ることができます。

城に興味のない人や「城の魅力=天守(てんしゅ)」という固定観念の強い人からすれば、「天守や展示物のない城に行って何が面白いのか」と思われるかもしれませんが、最近では老若男女問わず、多くの方々が天守のない山城に詰めかけています。城ブーム到来前から城めぐりをはじめ、これまで全国600以上の城を訪ねたことのある私にとっては、まさに隔世(かくせい)の感がします。

私の場合、作家になる前にドライブ途中に立ち寄った山中城(静岡県三島市)の障子堀の美しさに魅せられたことが、城めぐりに耽溺(たんでき)するきっかけでした。城を紹介するホームページを作り、原稿を書いているうちに小説になってしまったという経緯から専業作家になった私のキャリアの原点には、城があります。

城めぐりの楽しみ方は人それぞれで構いませんが、まだ城めぐりの面白さをご存じない方々のために、私なりにその魅力をお伝えしたいと思います。

過去最大の約2万人を動員した「お城EXPO2018」

「歴史と対話できること」こそが最大の醍醐味!

長年にわたって城めぐりをしていて、私が最も大切だと思うのは、ただ城に行くだけではなく、その城にまつわる歴史的背景や戦略的位置づけを事前に頭に入れておくことです。

歴史的背景や戦略的位置づけを調べてから城に行くと、そこに生身の人間がいたことを実感できます。

たとえば、落城という悲劇的な最期を遂げた城主家族の城なら、城跡にたたずみ、その諸行無常をかみしめることもできますし、縄張り(城の設計)で優れた城なら、築城家の考えに思いをはせることができます。こうした人間の息遣いを感じることこそ、城の魅力を倍増させます。

特に戦略・戦術面での城の位置づけを事前に頭に入れてから城に行くと、楽しさが倍増します。

まず大切なのは、「領主は、なぜこの地に城を築いたのか」という戦略的視点です。城には防衛拠点、侵略拠点、監視所、狼煙場、交通遮断拠点、補給基地、宿泊施設、関所、船舶停泊地といった目的が課されています。そうした築城目的によって、城の地選(立地)、規模、縄張りなどが決まってきます。さらに、そこから史料や研究本を調べていくことで、特定の作戦におけるその城の位置づけまで見えてきます。

また中世古城は自然地形を利用して築かれますが、堀や土塁などの遺構は、築城家の意図を反映して築かれた人工物です。「なぜここに堀や土塁があるのか」「この馬出(城の出入り口を守る小曲輪(くるわ))はいかなる目的で築かれたのか」という戦術的視点を探っていくことで、築城家の意図を読み解くのも楽しみの一つです。

城跡には、そこに生きた人々の目的や意図が反映されています。それを念頭に置き、築城者が置かれた状況に思いをはせることができると、また別の風景が浮かんできます。

数百年前、そこで懸命に生きていた人々の息遣いを感じることこそ、「歴史と対話する」第一歩なのです。