<strong><57歳で出店>和田 茂<br></strong>1948年、東京都生まれ。53歳のときに日本アイ・ビー・エムを早期退職。その後はIT系コンサルタントの傍ら、カレーづくりに開眼し、専門店出店を決意。定めた開業資金内での物件探しは苦労したというが、かつての勤務先界隈で土地勘のある茅場町(中央区新川)に決定、内装は手づくり・再利用を心がけ、半年後「カリー シュダ」を開店。
<57歳で出店>和田 茂
1948年、東京都生まれ。53歳のときに日本アイ・ビー・エムを早期退職。その後はIT系コンサルタントの傍ら、カレーづくりに開眼し、専門店出店を決意。定めた開業資金内での物件探しは苦労したというが、かつての勤務先界隈で土地勘のある茅場町(中央区新川)に決定、内装は手づくり・再利用を心がけ、半年後「カリー シュダ」を開店。

店主イチオシの「鶏もも肉のカレー」は、ひと口含むと鶏肉の身がほぐれ、スパイシーだがほのかな甘味と素材の旨味を引き出すカレーソースが絶妙なハーモニーを奏でる。脂分を控え、新鮮なスパイスの香りが特長のヘルシーなカレーである。味も驚愕だが、そのカレーは独学の成果というのにも驚かされる。

店主の和田茂さんは、日本アイ・ビー・エムで長くマーケティングを担当。約30年勤め、早期退職した。「一般にIT系はトップマネジメント職まで昇りつめるか、独立するか。私は後者を選択。引き合いもあり、IT系のコンサルタントを務めていました」。

一方で残りの人生を、「別の仕事もしたい」という気持ちもあった。独立し、時間ができたこともあり、和田さんは足を踏み入れることのなかった自宅の厨房に立ち、カレーをつくり始める。初めはあくまで趣味の世界。「週に1~2度は本格派のインドカレーを食べ歩いていたので、やるからには自分が旨いと思うものをつくろうとした」という。ネットでレシピを集め、インド人が使うスパイスを揃え、試行錯誤を繰り返した。すると和田さん曰く「コレ!」という納得のゆくカレーができてしまったのだ。

自分がコンサルタントを務める会社にお手製のカレーを持っていき、社員や顧客に振る舞うと評判は上々。IT関連だけに中にはインド人もいて、彼らからも「お店が出せるよ」と絶賛だった。1年ほど、そんな行為を続けた後、和田さんはカレー専門店の出店を決意。

厨房には自分の舌で確かめて集めた19種類のスパイスが、ずらりと並ぶ。その調合はメニューの具材によって変わる。スパイスはなるべくホール(原型)のまま保管し、つくる際にパウダー状に挽く。

厨房には自分の舌で確かめて集めた19種類のスパイスが、ずらりと並ぶ。その調合はメニューの具材によって変わる。スパイスはなるべくホール(原型)のまま保管し、つくる際にパウダー状に挽く。

自分が美味しいと思うものを人に提供する喜びに目覚めたのだ。「とにかくやってみよう」と、そのプロセスだけを見ると無謀にも思えるが、すでに2人の子供は独立。大企業ならではの手厚い企業年金制度もあり、すでに老後の生活資金は整っていた。開業資金は、早期退職で得た退職金をもとに500万円を充て、それで賄うよう決意、徹底した。いわば万全ともいえる経済的準備があればこそ、今はランチ時に店を手伝う妻も、安心してご主人を見守ることができるのだろう。

他店では味わえない独創的なカレーは1000円でお釣りがくる価格設定。収支は今のところトントンで、「まあ、大きな赤字にならなければ」と笑う。店名のシュダとは「純粋」の意。今日も和田さんは純粋な気持ちで厨房に立ち、19種類のスパイスを使い分け、新鮮で魅惑の香りを漂わせる。着実に増えるリピーターが、和田さんの何よりの喜びだ。

(撮影=向井 渉)