「この水路の下流にあるコナラは炭の材料にもなります。皆さんのような“上流”の方々にお馴染みの備長炭はウバメ樫。どちらも同じブナ科の木なんですね」
森林インストラクター・石井誠治さんの野外講座は実に愉快。そのガイドぶりは学者より詳しくてわかりやすく、下手な芸人よりも楽しい口上が満載。笑いの絶えない中、参加者は自然について理解を深め、実りある時間が過ごせる。
石井さんは現在、野外講座の講師から、図鑑などの執筆、エコツアーのガイド、さらに樹木医として樹木調査や診断なども行っている。こうした多彩な仕事を可能にしたのは、彼自身の経歴が関係する。
大学在学中から青少年の野外活動を支援する公益法人に関わり、今も全国の公園などでよく目にするグリーンアドベンチャー(自然観察コース)づくりを大学の先生らと手がけたのが石井さんなのだ。先生たちの下で樹木の分類を学んだ後、園芸会社に勤め、植物や樹木の知識を深め、市場や業界までも熟知していく。
転機が訪れたのはバブルが弾けて以降のこと。会社の業績が先細りしていく中、新たな道が石井さんの前に拓ける─―。それがその頃できた森林インストラクターの資格。「資格=仕事ではなく、自分が目指す仕事の方向性がそこにあった」と石井さんは言う。必要に応じて樹木医と環境カウンセラーの資格も取得した。
しかし、石井さんは資格取得後、いきなり独立・開業に至ったわけではない。5年間、会社業務の傍ら、休日にガイドの仕事を務め、「独立後にベースとなる最低限の収入を分析、妻を説得した」と、用意周到に準備。フリーランスとなって今年で7年目。ようやくサラリーマンの平均年収の2倍くらいと笑う。
「最近でこそ、森林生態学など自然の生態系をマクロに捉えた学問も重要視されていますが、少し前は細分化されすぎて、この視点が欠けていた」と石井さん。
「実際に、自然の樹木のざらざらした木肌や葉っぱなどに直に触ったことのない子供たちは、映像を見ても自然を感じとることができません。仮視体験でしかないのです」。だから体験を伴う石井さんの野外講座では「子供たちの表情が変わるのが一目瞭然」という。
「自然が失われつつある中、公園などで身近な樹木や花、昆虫が互いに結びついて共生していることを教える森林インストラクターの存在は、今後さらに必要とされる」という確信は見事的中した。