壁面の「羽」は顔を出したくない人には都合がいい

【須田】あと、インスタ映えでは「レトロ」もポイントですね。

【原田】確かにこの前みんなで埼玉の秩父に行った時、秩父の街にあるレトロなモノの写真を撮りまくってたもんね。昭和の「オロナミンC」の広告ポスターや古い建物、右から左に文字が書かれた看板とか。

【小野里】千葉県鋸南町にある「道の駅 保田(ほた)小学校」は廃校になった小学校をリノベーションしてるんですが、人気スポットです。

道の駅 保田小学校の様子。顔ハメパネル(左)と給食風の食事メニュー(右)。(写真提供=「若者と旅」座談会メンバー)

【牧之段】あと「江戸東京たてもの園」(東京都小金井市)はめっちゃ人気ですよ。

【原田】『千と千尋の神隠し』の建物のモデルがあるんだ。「海の横のモニュメント」「レトロ」、他には?

【正田】壁画とか。

【小野里】「羽」は以前から定番ですね。壁に大きな羽が描いてあって、その前で撮ると自分から羽が生えてるように見える。有名どころだと、横浜の赤レンガ倉庫の近くにある「MARINE & WALK YOKOHAMA」にあります。

【原田】壁画の羽はアメリカが発祥なんだよね。結構世界中いろんなところにある。

【小野里】観光地によくあるような顔ハメパネルは真正面からしか撮れないけど、壁画の羽は後ろ向きでも撮れるので、むやみに顔をSNSに出したくない人は都合がいいんですよ。

【神谷】ユニバ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)にあるハートの壁も人気ですね。「ハローキティのリボン・コレクション」の壁が一面ピンクで、壁にハートがあしらってあるんです。通常は子供向けのエリアなんですけど、あえて中高生や大学生の女の子たちがその壁目的で行って、ハートを挟んで二人で写真を撮って楽しんでいるのをよくインスタでみかけます。

USJの「ハローキティのリボン・コレクション」の壁。インスタ映えで人気だという。(写真提供=「若者と旅」座談会メンバー)

おいしいかどうかは、問題ではない

【今野】私は普段食べ物ばかり撮ってインスタに載せているんですけど、日本にない「映(ば)え」を求めて海外にも行きますよ。日本だと、アイシングクッキーが乗っているだけのものとか、ありきたりのものばかりなので、つまらない。食べ物に関しては、最近は日本発の「映(ば)え」がありません。

【原田】日本の食べ物は本当に若者たちには魅力がないと感じられるようになっているよね。平均的な味は間違いなく世界一だけど、映えの観点では全くダメ。ここ数年、東京の若者たちが飛びつく食べ物は、アメリカか韓国か台湾の食べ物ばかり。コンビニに置いてあるマスプロダクトも、そもそもコンビニユーザーの平均年齢が日本人の平均年齢と同じ50歳くらいになってきていることもあって、映える商品がほとんどない、という嘆きをよく若者たちから聞く。

2025年には人口ボリュームの多い団塊世代が後期高齢者になり、コンビニにはあまり行けなくなるだろうし、初代インスタ映え世代は既に20代後半になっており、企業は今から映えプロダクトを本気で考えないといけないはずなのに。ちなみに、いま人気な食べ物は?

【今野】レインボーのトースト、ラメドリンク、宝石みたいなケーキ、わたあめの中にアイスを包んだやつ……。レインボーのトーストを除くと、いずれも日本にはまだ入ってきていません(※)。

※編註:座談会を収録した2018年9月時点にはなかったが、その後18年11月に京都の店がラメドリンクの提供を始めている。

ロサンゼルス郊外にある「THE LOOP」のチュロスとラメドリンク。

【原田】(写真を見て)どれも、超すごい見た目だね! これっておいしいの? せっかく旅行に行くんだから、地元の名産品を食べたほうがいいんじゃない?

【今野】大体おいしいんですけど、仮においしくなくても、見た目がかわいければ気分が上がるので。もちろん地元のご飯を食べるのもいいんですけど、旅行ならではの非日常を極めたいんですよ。

【原田】地元の名産品は十分非日常だと思うけど、見た目での非日常がとにかく重要になってきているんだね。