「チル」という価値観で生きている今の若者

【原田】あと、前提として、平成不況やデフレで日本のサラリーマンの給料はこの15年くらいで大体60万円くらい下がっているから、両親と同居している学生も以前より金銭的に余裕がなくなり、「海外旅行離れ」につながっている点は押さえておくべき。「海外に興味がないんじゃなくて、金がねーんだよ!」と言いたい若者は、かつてより多くなっているのは事実。ただし、この数年で景気回復と人手不足、さらにLCC(格安航空会社)の普及などで、その前提に変化が見られるようになってきている。

撮影=プレジデントオンライン編集部

【今野】私は上智大学なので、周りに海外志向の子が多くて海外に行きまくっています。特に男子より女子のほうが海外に行っている印象です。女の子のほうが親に甘やかされていて、親に旅行費を払ってもらってる子が多い。男子のほうがそれが少ないから、男子は海外より国内に行っている印象です。

【神谷】海外に行かないタイプは、面倒くさがりの子が多い印象かな。パスポートを取るのだって結構面倒くさいですしね。

【原田】今の若者を表すキーワードの一つに「チル(まったりする)」というのがあるね。最近の学生は、「ネフリでチルってる(ネットフリックスを見ながらまったりしている)」なんて言葉をよく使う。「チル」という価値観で生きている今の若者にとって、海外旅行の手続きや事前準備は基本的には面倒でしかないんだろうね。

【高貫】小さい頃から親に海外へ連れて行ってもらっていた子ほど、今も行っている印象です。

【原田】それは統計的にも本当にそうらしい。今日のメンバーも、小さい頃から親に海外に連れて行ってもらっていた人がきっと多い。2000年代の初頭から「格差」という言葉がキーワードになったように、出身世帯のさまざまな格差が、子供に与える影響が非常に大きくなっている。

現在アラフィフのバブル世代から現在アラフォーのポスト団塊ジュニアくらいまでは、そもそも親に海外に連れて行ってもらった人の比率が必ずしも多くないから、親に海外に連れて行ってもらったかどうかではなく、多くが個人の動機によるものだった。

が、今は個人の動機が減り、親が小さい頃に海外に連れて行ったかどうか、という「海外旅行の原体験」が非常に大きな影響力を持つようになっている。

また、特に今の若い人は、昔と比べて親とすごく仲が良くなってきているので、より親の影響を受けるようになっている。例えば、『ママっ子男子とバブルママ』(PHP新書)という本にも書いたんだけど、今の若年男子が化粧水を使い始めたきっかけって、母親からのススメが一番多いんだよね。

僕らの頃は、親に黙ってアジア各国をバックパックで放浪する、なんて若者がたくさんいたけど、今の若者たちは親と何でも話し合える子が多いよね。

【高貫】自分ひとりや友達とは行かないけど、家族と年に1回は行くという子もいますね。

【正田】それこそ、僕は年1で家族旅行してますよ。国内ですけど、箱根とか横浜のインターコンチネンタルホテルとか。

【須田】箱根は僕も家族旅行で行きました。

【神谷】この8月に家族と熱海に行きました。

【浅見】私も家族旅行はよくしますね。ここ最近だと箱根とか群馬の万座温泉とか。

【原田】大学生になっても普通に家族旅行しているんだね。僕なんか今でも恥ずかしくて母親と2人で外を歩くのが苦手だけどなあ。

やっぱり、今の若者は、親と仲がいいんだね。ある意味うらやましい。旅行業界は少子化と若者の旅離れにより、中高年ばっかりをターゲットとして見るようになっているけど、実は「子供や若者を撒き餌とした親」という市場が急拡大していることに気づくべきだよね。

【小野里】私は家族全員ではないですが、母と二人で行きますよ。

【原田】ママっ子男子とバブルママ』にも書いたけど、特に母親と子供の仲が良くなっているようだね。女子だけでなく、お母さんと二人で旅行に行く男子も増えているみたい。どうやらお母さんと二人でも、周りから変な目で見られる、ってことはなくなっているようだね。僕なんか41歳の今でも母親と2人で歩くのは恥ずかしいけどね。