今年の箱根駅伝では、青山学院大の5連覇はならず、東海大が初の総合優勝を果たした。なぜ東海大は勝つことができたのか。2位で折り返した復路で、監督は選手たちにどんな声をかけたのか。元箱根駅伝ランナーで、スポーツライターの酒井政人氏が、そのポイントを解説する――。
5連覇を目指した青山学院大。原監督は選手にゲキを飛ばしたが、今回は、東海大の初優勝を許した(「日本テレビ箱根駅伝」のウェブページ「出場校&選手一覧」で紹介される青学大の選手)

総合優勝の東海大・両角速監督が選手にかけた「魔法の言葉」

正月の風物詩となった「箱根駅伝」。往路・復路の平均視聴率は31.4%で、日本テレビでの中継が始まって以来、最高だったという。気象条件に恵まれ、「区間新」が多く出たこともあるが、5連覇を目指した青山学院大や、ライバル校である東洋大、そして初優勝を果たした東海大がそれぞれ見せ場を作ったことが高視聴率につながったのだろう。

レースは、首位のチームが目まぐるしく変化した。

前回往路優勝の東洋大が前年に続いて、大手町スタートの1区でトップを奪うと、3区は青学大・森田歩希(4年)が区間新の快走で首位に立つ。4区は東洋大・相澤晃(3年)が“区間新返し”で再逆転。東海大は5区、箱根の山登りを西田壮志(2年)の区間新で東洋大とのタイム差を1分14秒まで短縮。その東海大が翌日の復路も見事な継走を見せて、8区小松陽平(3年)の区間新で勝負を決めた。

走行タイムで往路優勝は東洋大、復路優勝は青学大、総合優勝は東海大という珍しいレース展開は視聴者をテレビにくぎ付けにした。

箱根駅伝は他の駅伝大会と異なり、各大学の監督・コーチら指揮官たちは運営管理車に乗り込み、自チームの選手の後ろにつくかたちでレースを追いかけ選手たちに指示を送る。

指揮官たちはレース中、選手にどんな声をかけているのか。そして、その声は選手たちにどんな影響を及ぼしているのか。東海大が逆転した復路(6区~10区)の戦いを指揮官たちの「言葉」で振り返ってみたい。

往路2位 東海大選手の心に火をつけた「言葉」

●6区

初日の往路が終わった時点(1位東洋大、2位東海大、6位青学大)で、東海大・両角速(もろずみ・はやし)駅伝監督は「(1位の)東洋大しか見てない」と、選手たちに4分16秒差で追いかけてくる6位の青学大への恐れの意識を捨てさせた。

そして山下りの6区が始まる。トップの東洋大は今西駿介(3年)で、1分14秒差でスタートする東海大は中島怜利(3年)。前年も両者は同じ区間を走っており、その際は、中島が今西より約1分タイムが早かった。この結果を考えると、東海大は一気に詰め寄りたいところだが、両角監督は中島に「そこまで決めなくていいぞ」と声をかけている。

10日ほど前に左足首に痛みが出て、万全な状態ではなかったからだ。中島は序盤に差を広げられるものの、本格的な下りに入ると徐々に詰めていく。結局、区間歴代3位の58分06秒(区間2位)で山を駆け下りて、東洋大との差を6秒短縮した。

一方、往路優勝した東洋大としては6区の今西が想定以上の走りを見せたことで、絶好の復路スタートとなった。