ノーディールになった場合、英国とEUの双方が悪影響を被る。そのため現実的には、その悪影響を緩和する経過措置が採られると予想される。現にEU側は12月19日にノーディールの場合、ヒト・モノ・カネのやり取りに関する激変緩和措置を発表し、1~2年間は現行の取り扱いを準拠する方針を示している。

ノーディールなら英国は長期の経済危機に陥る

ノーディールとなった場合、英国経済への悪影響は避けられない。英政府は11月30日、ノーディールだと向こう15年で最大9.3%もGDPが減少するという試算を発表した。数値の妥当性はともかく、ノーディールは英景気に以下で述べるような形で、深刻な悪影響を及ぼすと予想される。

まず英国の通貨ポンドの暴落は避けられない。英国経済の将来を悲観した投資家がポンドを投げ売りするためだ。輸入超過である英国の場合、ポンド安によって輸出競争力が改善しても、景気が加速することにはつながらない。むしろ輸入コストが増加してインフレが進み、消費が停滞することで景気にブレーキがかかることになる。

ポンド相場を下支えするため、英中銀は金融引き締めを余儀なくされる。その結果、金利が上昇し、消費や投資が停滞することになる。コストが増加して需要も悪化することから、生産も低迷を余儀なくされる。お家芸の金融サービスも、EUからアウトソースされている機能を失う分、活力を失うことになる。

離脱協定案に基づく離脱の場合、離脱から一定期間の移行期間が設けられるし、場合によってはその延長も可能になる。したがってノーディールの場合に比べれば、英国景気への悪影響は緩和される。ただ景気が悪化すること自体に変わりはない。EU離脱という選択自体、経済的観点から見ればナンセンスそのものである。

そうした非合理な決断を選択した背景にあるのが、英国のみならず世界的に高まる民族主義(ポピュリズム)であり、それを先導するポピュリスト政治家の存在だ。ポピュリズムの熱に浮かされると破壊的な将来が待ち受けていることを、今年の英国は我々にまざまざと見せつけることになるだろう。