親身になっているそぶりを装いながら、最後はそっけなく突き放す――。これは女性客を口説く際のホストの鉄則だと聞いたことがあるが、同じ手口だ。今年になって、売却することに納得した母親は、証券会社に向かった。1時間後、長塚さんに母親から電話が入ったという。

「営業の人が何度も謝って、もう一度チャンスをくれませんかというのだけど、半分だけ残しちゃだめかね……」

恋はまだ冷めていなかった。

「母の老後を狂わせた営業マンを八つ裂きにしたい気持ちでいっぱいですよ」

と、長塚さんは激しく怒っている。

昨秋のリーマンショック以降、多くの投信がマイナスとなり、元本割れで頭を抱えている個人投資家が多い。
昨秋のリーマンショック以降、多くの投信がマイナスとなり、元本割れで頭を抱えている個人投資家が多い。

長塚さんの友人、西田義幸さん(仮名、52歳)は変額年金保険を購入して、老後に備えた資金をかなり減らしたという。

「早期退職で約2000万円の退職金が出た。転職先の会社は契約社員なので退職金がない。これでは老後資金が心細いと思って銀行に相談しました」

銀行の窓口担当は「元本保証がついているので安心です」といいながらパンフレットを広げたという。それが変額年金保険だった。この商品は預けた資金をファンドで運用、結果次第で受け取る年金額が変化する商品だ。銀行で扱う多くは運用結果にかかわらず支払った保険料の最低保証機能がつく。

「いろいろ説明されたのですが、よくわかりませんでした。ただ、預金しても増えないし、銀行が扱うものなら危険はないだろうと思ったのです」

娘に契約書を見せたところ、「投資信託と同じで元本割れすることもある」といわれて愕然とする。そんな商品だとは聞いていないと銀行に駆け込んだが、相手は「説明した」の一点張り。解約を申し出ると投資額の7%、140万円の解約手数料がかかるという。そんな話も聞いてないといっても、相手は聞く耳を持たない。悩んだ末に解約を見送ったが、サブプライム問題などで株価は下落。運用資金はどんどん減ってしまった。

「とにかく満期まで持つしかない」と、諦めかけた矢先、保険会社から通知が届いた。資産残高が下限の8割を下回ったため、運用をストップする。預けたお金を15年間の年金で受け取るか、解約かを選択しろという。

「解約しました。戻ってきたのは1400万円です。売るときは美味しい話ばかり。人が損をするとそれは契約だという。こんな詐欺みたいな商品を売っている連中とはもう関わりたくありません」

投資家保護が強化されているが、まだ道半ば。日本に健全な市場が育つまで「敗戦記」に終わりはない。

(的野弘路=撮影)