肺がんでは「抗がん剤に意味がない」もありえる

一方、肺がんは予後が厳しいがんである。肺がんの8割を占める非小細胞肺がんをモデルに考えてみよう。

I~II期の治療の柱は手術だが、手術前の検査で、手術中や術後に呼吸機能不全を起こす危険性が高いと判断された場合は「手術できない」とみなされ、放射線治療の対象になる。その場合、手術に近い成果を期待するには、放射線治療医が常駐し、2016年4月から保険適応になった「定位放射線治療」ができる施設を選びたい。保険診療外だが、重粒子線、陽子線治療も選択肢だ。

手術が可能な場合は、開胸術か胸腔鏡かで迷うかもしれない。国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長の大江裕一郎医師は「同じ呼吸器外科でも開胸術が得意な先生も、胸腔鏡術が得意な先生もいます。開胸術の傷は7~8センチほどですし、得意な方法で執刀をお願いしたほうがリスクは少ない」という。

肺がんのIIIA/IIIB期は、外科単独でなくチーム医療が必要な段階だ。手術ができるIIIA期の一部を除き、放射線治療と抗がん剤治療が柱になるので、放射線治療医と腫瘍内科医が常駐している施設が望ましい。

肺がんの場合もI~IIIA期の一部で、術後の補助化学療法が行われる。

「術後補助化学療法のデメリットは、副作用があることよりも、10人に1人しか恩恵が受けられないことでしょう。つまり、残りの9人は手術のみでも治癒するか、抗がん剤を受けても再発するかのどちらかです。抗がん剤に意味がないと思う方がいてもおかしくはありません」(大江氏)

I期の患者が飲む抗がん剤の副作用は、それほど強くはない。だが、II期以降で登場する「プラチナ製剤併用療法」では、吐き気や食欲不振、しびれ、脱毛などが現れる。この薬を使うかどうかは悩みどころだ。

歩いて病院に通えないときが、抗がん剤の「やめどき」

もし肺がん患者になったとき、大江氏自身は、術後の抗がん剤治療を受けるだろうか?

「受けます。肺がんは厳しいがんです。10%でも生存率が向上するという事実は意義があると思います。それに、プラチナ製剤の副作用がきついというのは昔の話です。抗がん剤の治療中でも、皆さん普通に歩いて通院してくるのですから」

IV期は延命のステージだ。1番手(1st line)の抗がん剤が効かなくなれば2番手(2nd line)へ、次は3番手(3rd line)へと薬を替えて命をつなぐ。だが15年末、「免疫チェックポイント阻害剤」が2番手、3番手で使えるようになったことで、長期生存の可能性も出てきた(免疫治療)。大江氏が言う。

「IV期では、がんの遺伝子異常の情報などを手がかりに、その人に効きやすい抗がん剤から使うので、次第に効く可能性が小さくなるのは否定できません。基本的に普通に歩いて病院に通えなくなったときが、抗がん剤の『やめどき』だと思います」

抗がん剤を早めに切り上げて緩和ケアに移行した結果、かえって余命が延びたという報告もある。余力を残して「終活」に臨むことも1つの選択だろう。

上野雅資(うえの・まさし)
がん研有明病院消化器外科・大腸外科部長
医学博士。腹腔鏡大腸がん手術約2000例施行の実績を持つ。1983年、金沢大学医学部卒業。2011年から現職。
 

大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)
国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長
医学博士。1959年、東京都生まれ。84年、東京慈恵会医科大学卒業。2014年から現職。