強烈な印象が残った『夜と霧』
――関連書籍を含めて500万部超の大ベストセラーとなったデビュー作の『永遠の0』、130万部を突破した『モンスター』など、百田さんの作品は経済小説、ミステリーなど多岐にわたる。どれも緻密な調査に基づき、読み手はそのリアリティー溢れる世界に引き込まれていく。だが意外なことに「20代初めまでほとんど本を読まなかった」という。
実は、10代から20代初めまでほとんど本を読みませんでした。しかし、放送作家になってから周囲を見ると、一緒に仕事をしている人たちは、みんな本をよく読んでいたんです。それに刺激されて、20代初めから30代初めまで、年300冊くらいのペースでいろいろなジャンルの本を読破しました。
ただし、10代に読んだ数少ない本のなかで強烈な印象が残った本が、16歳のときに読んだヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』。オーストリアのユダヤ人精神科医が、ナチスの強制収容所での過酷な体験を回想したものです。「人間はどんな絶望的な状況でも、希望を失わず、生き続けられる存在なのだ」ということを知りました。
――その『夜と霧』を読んだことで生じた1つの思いが、これまでの百田さんの数々の作品に貫かれている。そしてその思いこそが、百田さんが読者に一番訴えたいことなのだという。
「生きることの肯定」――。これが小説も含めた芸術の存在意義だと、僕は考えています。つまり、勇気を持って人生に立ち向かうことを鼓舞するのが、芸術の真の目的なのです。ところが、日本では人生を否定するような内容の小説を書き、しかも自ら命を絶ってしまう有名作家が多い。
僕が『永遠の0』を書いたのは、親の世代から聞いた戦争体験を書き残しておくことが、自分たちの世代の役割だと考えたから。そして何よりも、戦闘機パイロットでありながら、命の大切さを訴える主人公の宮部久蔵の生きざまを通して、生きることの肯定を伝えたかったのです。
どんな人間でも、人生は山あり谷ありです。楽しいことばかりではなく、もがき苦しむこともある。でも、だからこそ人生には価値があるし、生きることは面白い。ビジネスパーソンの皆さんも、たとえ仕事がうまくいかないときがあっても、それをバネにして、人生を謳歌してほしいのです。