日本の戦後復興のために、一身を捧げた人たち

――2012年7月に出版された『海賊とよばれた男』はロングセラーとなり、上下巻の累計で450万部を突破、16年には映画化もされて大ヒットを飛ばした。そして今回、プレジデント誌の「総選挙・総合順位」でもトップ10にランクインを果たした。本書を執筆したきっかけについて、著者の百田尚樹さんは次のように語る。

直接のきっかけは、11年3月に起こった東日本大震災でした。08年のリーマン・ショックで日本経済が大打撃を受けたところへ、大震災が追い打ちをかけて日本全体が活気をなくし、自信も失っていました。

そんなとき、「日章丸事件」のことを思い出したのです。1953年にイランが石油を国有化し、その石油を出光興産が自前のタンカー「日章丸」で日本に輸入した事件。一民間企業が、イランの石油の所有権を主張する英国の政治的な圧力をはね返し、石油不足に悩む日本国民のために断行したのです。しかも、出光興産の勇気ある行動を、心ある一部の官僚や銀行家が、自分たちのクビをかけて支援したのです。

僕は震災前、知り合いの放送作家に教えてもらうまで、事件のことは全く知りませんでした。日本の戦後復興のために、一身を捧げた人たちがいたことを知り、大きな衝撃を受けました。そして、震災直後のいまだからこそ、日章丸事件のことを書く意味があるのではないか、多くの日本人が自信を取り戻すのではないかと考えたわけです。

――百田さんは原稿の執筆が速いことでつとに知られている。文庫本で約900ページにも及ぶ本書の執筆も驚異的なスピードで進んだが、書き進めるうちにある思いに突き動かされ、一心不乱に取り組んだという。

確かに日章丸事件をテーマにするつもりで、資料を読みながら小説を書いていました。しかし、書き進めるうちに出光興産の創業者であり、日章丸の指揮を執った出光佐三の偉大さに気づいて、日章丸事件も含めた、出光の人生を描くことに方針を転換したのです。

出光は一生涯、「事業の目的は世のため、人のため」という経営理念を貫いた希有な実業家です。「社員は家族」と言い切り、終戦時に経営破たんの危機に瀕したときでさえ、1人の社員のクビも切りませんでした。

そうした出光の人間的な魅力に取りつかれたせいか毎日10時間、長いときは15時間も机にかじり付きました。第1稿は原稿用紙で約1400枚分あって、それを2カ月で書き上げ、その後4カ月かけて書き直したのです。本書が総合順位の10位になったのは、出光佐三の魅力が皆さんにもわかってもらえたからではないでしょうか。