韓国の男性音楽グループBTS(防弾少年団)が、ナチスのマーク入りの帽子をかぶっていたとして、SNSで炎上し、謝罪に追い込まれた。この騒動を「歴史を知らない世代の軽率な行動」とだけで片づけてはいけない。近現代史研究家の辻田真佐憲氏は「SNSでのバッシングこそ時にファシズム的だ。“ナチス風”が繰り返し模倣される理由を考えるべきではないか」と指摘する――。
ナチスの意匠はなぜ愛好され続けるのか
ナチス・ドイツの意匠があらためて注目を集めている。
先日のBTSの騒動については、繰り返すまでもないだろう。メンバーのひとりが過去にかぎ十字などナチスのマークをあしらった帽子をかぶっていたとして、所属事務所が謝罪に追い込まれたというものだ。
2016年に、欅坂46の「ナチス風衣装」が話題になったことも記憶に新しい。こちらは、ナチスのマークそのものではなかったものの、やはり同じように所属事務所が謝罪するに至った。
もっとさかのぼれば、2011年に氣志團がテレビ番組で「ナチス風衣装」を着たことや、2005年に英国のヘンリー王子が仮装パーティーでかぎ十字の腕章を着けたことなども挙げられる。こうした事例は、群小のものを含めば、枚挙にいとまがない。
ナチスの意匠は叩かれているのに、なぜかくも愛好され続けるのだろうか。そこには、ナチスのプロパガンダだけが持つ「危険な魅力」があるのだろうか。
プロパガンダの効果は測定が難しい
漆黒の制服。ワシとドクロのマークに、かぎ十字。鮮烈な赤地の腕章。ルーン文字の「SS」。右手を高く掲げて、「ハイル・ヒトラー!」。そしてグースステップの一糸乱れぬ行進――。
このようなナチスの意匠や様式は、俗に「かっこいい」「美しい」「洗練されている」などといわれる。そしてだからこそ、かつてナチスのプロパガンダは猛威を振るったのだとしばしば指摘される。だが、それは本当だろうか。
そもそもプロパガンダの効果は、測定がきわめてむずかしい。現在の選挙を考えると、すぐにそれがわかる。社会は日々動き、さまざまな要因が複雑に絡み合いながら、変化していく。そのなかで、どれがCMの効果で、どれがフェイクニュースの効果で、どれが経済や政治制度の影響でと、正確に腑分けすることなどできない。