それまでの力強い口調とは打って変わり、奥は息をかむようにひと呼吸を置いて静かにつぶやいた。だがその次の瞬間には再び太い声を響かせた。「宿澤の遺志を継いで、みんなが頑張ってきた」。
信用失墜の危機というさなかだっただけに、CA本部の創設は汚名返上の策という位置づけにもなったが、じつは頭取就任時から抱いてきた問題意識に対する奥自身の回答にほかならない。宿澤もそれを現場で実感していた。
過剰なまでに偏重した短期的収益の追求、銀行本位の営業姿勢、同じ銀行なのに部門ごとに存在する閉鎖的な壁。すべてが組織上の抜き差しならない桎梏であり、独禁法違反すら、それらの上に演じられた顧客軽視の顛末にすぎなかった。
克服に向けたキーワードは「シームレス」「ワンバンク」。大企業から中堅・中小企業まで、自らの顧客層をフルカバーし、半年ごとの期間収益という時間的な壁や、部門間にはびこる組織上の壁をブレークスルーすることによって、顧客とバリューを共有できるようにする。いわば旧弊の創造的破壊。しかし、これは言うは易く、行うは難し、だ。何よりも様々な軋轢が予想された。しかし、その実行を躊躇すれば、銀行は生まれ変われない。銀行の内外に逆風吹きすさぶ中で、06年4月、CA本部はテークオフした。
CA本部のエッセンスは、顧客に提案し、解決するソリューション営業にある。顧客に直に接しているとはいえ、従来の営業部門である法人営業部は日々のルーティンワークに追われがち。複雑な案件の解決策を顧客に提案する余裕は乏しい。そこを、CA本部が顧客と接するダブルフロントとしてカバーしていく。しかし、法人営業部がCA本部という新組織に対してアレルギー反応を示してもおかしくなかった。