なぜ積水ハウスはだまされたのか

17年6月、そうした状況を象徴するような事件が起きた。東証一部上場企業で、売上高が2兆円を超える日本有数の住宅メーカーである積水ハウスが、実に55億5900万円(第67期有価証券報告書より)を失う不動産詐欺事件が起きたのである。

犯人は、本人確認書類である印鑑登録証明書やパスポートを偽造することで、土地の所有者に成り代わりその売買代金を着服した。この手口は「地面師」と呼ばれ、古くからあるもの。しかし買主である積水ハウスは犯人が物件の所有者であると思い込まされ、まんまと売買金額を払ってしまった。

そもそも役所での本人確認には制度上、ゆるいところが残存している。

偽造や盗難でも「公的な証明書」は手に入る

たとえばローンを組むために必要とされる印鑑証明書。この本を執筆している18年9月現在、印鑑証明書を取るために必要な実印の登録や印鑑登録カードの発行は、運転免許証を用意することができれば可能となっている。つまり、偽造だろうが盗難だろうが、運転免許証さえ準備できれば、公的な証明書を手に入れることができてしまうということだ。

これまでも本人確認がゆるいことを理由としたトラブルは再三起きてきた。それがとても大きな規模で明るみに出たのが、この積水ハウスの詐欺事件だった。

そして21世紀となった今もこんな古めかしい手口が通用してしまったところが、著者からすれば、だまされやすく、そしてだましやすい「不動産取引」のリアルを象徴している気がしてならない。

「不動産登記に公信力は無い」という事実

実は日本の登記制度では「不動産登記に公信力は無い」とされ、登記も義務ではない。これは不動産登記簿に名前が載っていたとしても、それがすなわち「本当の所有者」を意味するかどうかを保証するものではない、ということだ。

しかし公信力が無く、登記をするかしないかは所有者次第という状況に置かれているせいで、誰が本当の土地の所有者なのか、外からは分かりづらくなってしまっているのも事実である。

とある土地に誰かの邸宅があり、はっきりと生活している痕跡があれば、おそらくその家族に所有権が存在していることが推測できるだろう。